だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「そうきたか」

 こちらとしては真剣に言ったつもりなので、わけがわからず呆気にとられる。けれど無愛想な顔でいられるより、今の方がよっぽどいい。

「べつに無理にとは言いませんよ。けれど、なにか〝してあげたい〟なんておこがましい考えはないです。妻として私がしたいことをしたまでですから」

 彼の態度のおかげか、私も唇を尖らせ軽口を叩く。

 コーヒーをカップに注ぎ、再びテーブルに戻った。当然のようにまた向かい合って座る。久弥さんはブラックなので、自分のためだけにミルクと砂糖を用意した。

 一口飲むとなんとなく気持ちが落ち着く。

「光子さん、久弥さんを心配されていました」

 仕事が忙しい現状だけじゃない。子どもの頃、両親のいない久弥さんをあまりかまってあげられなかったと、光子さんは後悔していた。甘えたかったときもあるだろうに、早く大人にさせてしまったと。

『心配なの。すごく立派にいい子に育ってくれたとは思うけれど、ひとりで抱え込んで、なんでも自分で解決してしまおうとするタイプだから……でも瑠衣さんがいるからもう大丈夫ね。久弥があんなふうに誰かを求めたの、初めてよ』

 最後は安堵した表情を見せた光子さんに精いっぱい微笑みかけた。

 私たちが結婚した背景を絶対に光子さんに知られるわけにはいかない。知られたくない。

「自分を不幸だと思った覚えはないし、祖父母には感謝しているよ。うしろめたさなんて感じる必要はないっていつも言っているんだが……」

 ため息交じりに漏らす久弥さんに、意識を戻す。
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