だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「すごく楽しみにしています」

 あれこれ問い詰めたくなるのをこらえて笑顔で返す。

『瑠衣ほどのものはできないが』

 どうやら彼は本気で言っているらしい。自然と笑みがこぼれた。

「無理はしないでくださいね」

『瑠衣もな。お義母さんはきっと大丈夫だ』

「はい。お忙しい中わざわざ電話、ありがとうございます」

 電話を終えた後、その場で大きく深呼吸する。久弥さんとのやりとりに心が幾分か落ち着いた。さっきまでずっと心を覆っていた(もや)が晴れたようだ。

 忙しい彼がわざわざ電話してくれたのが嬉しかった。ひとりじゃないと思える。

 久弥さんにとって私はいろいろ重なる部分が多いのかもしれない。だからこんなふうに気にかけてくれるんだろうな。

 どんな理由でもいい。彼の存在に救われているのは事実だ。

 さっさとなにかを口にしてから手術室前に戻ろう。終了予定は夕方になる。気を取り直し、店内に再び足を向けた。

 やや時間が押したが、手術は無事に成功したと医師から告げられた。しばらくは集中治療室で過ごし、経過に問題がないようなら一般病棟に移ってリハビリを始める、といった旨の説明を受け、術後の処置が終わった母と対面する。

 とはいえまだ全身麻酔の効いた状態の母は、人工呼吸器をつけられた状態で意識はなく顔も青白い。

「お母さん、お疲れさま。また明日、来るからね」

 本人に届いているかどうかはともかく、私なりの精いっぱいの気持ちを伝え、医師や看護師に何度も頭を下げる。
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