だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 病院の外に出るとすっかり辺りは暗くなっていた。午後六時を回っていて吐く息が白く、肌に刺さる空気が痛い。室内との温度差に体が追いつかない。

 手術が無事に成功したと村上さんに連絡をし、念のため久弥さんにもメッセージを送っておいた。

 久弥さん、何時頃に帰ってくるかな。病院から家まではわりと距離があるから、もしかしたら彼の方が早いかもしれない。

 いろいろと話したい。久弥さんに会いたい。

 気持ちが逸りスマホを確認すると、数分前に着信があったことに気づく。相手は久弥さんですぐにかけ直した。出てくれないかもしれないと思ったが、数コールで繋がった。

『瑠衣、無事に手術は成功したんだな』

 どうやら私のメッセージを読んで連絡をくれたらしい。

「はい、おかげさまで」

『それはよかった。ただ、悪い。早く帰ると言ったのにどうしてもはずせない仕事が入ったんだ。今日も遅くなると思う』

 久弥さんの声を聞いてホッとしたのも束の間、続けられた内容に私はあからさまに落胆した。

「そう、ですか」

『夕飯も食べて帰るから用意しなくてかまわない。先に休んでおけ』

 久弥さんの気遣いがありがたいようで寂しくも感じてしまうのはなぜなのか。そういったものを悟られぬよう明るく返す。

「久弥さんも大変ですね。大丈夫ですから気にならないでください。久弥さんもお疲れさまです」

『気をつけて帰れよ』

「はい」

 素直に頷き電話を切る。そして私は重い足取りで駅を目指した。
< 64 / 193 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop