だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 おかげで反射的に否定の言葉が口をついて出る。

「いいえ! 気にしないでください。母の手術も無事に済みましたし、それに……」

 早口でまくし立てたものの、その勢いはすぐに削がれた。妙な沈黙が舞い降りて、うつむいた私に久弥さんの視線がつき刺さる。

「久弥さん」

 口火を切ったのは私で、顔を上げないまま彼の名前を呼んだ。しかし次がなかなか続かない。

「あの、その……」

 言い淀む私に対し、久弥さんは辛抱強く待ってくれている。心の中で言おうか、やめようかと葛藤した末に意を決した。

「頭……撫でてもらってもいいですか?」

 消え入りそうな声でお願いした内容は、彼にとって突拍子もないもので、おそらく困惑しているに違いない。子どもでもあるまいし、なにを言っているんだって思われているかも。

 後悔の渦が激しく回り出し、訂正を口にしようとした。

 そもそも私が彼になにかをお願いできる立場じゃ……。

 ところが、その前に手のひらの温もりを頭に感じた。

「どうした、瑠衣? 大丈夫か?」

 尋ねながらも、久弥さんは私の頭を撫でる手を止めない。伝わる手のひらの感触に涙腺が緩みそうになるのをぐっと我慢する。

 それよりも今は、彼の心配を打ち消さないと。

 おもむろに顔を上げると、久弥さんの手が止まった。彼に向けて無理やり笑顔を作る。
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