だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 ベッドサイドに下ろされたと認識するや否や軽く肩を押された。背中にベッドの感触がある。天井を視界に捉えた途端、私を見下ろす久弥さんと目が合い、思わず息を止めた。

 硬直する私とは反対に、久弥さんは口角を緩やかに上げる。

「瑠衣が嫌じゃなければ、もう少しだけ触れたい」

 なにを言われたのか。頭が真っ白になり、穴が開くほど彼の顔を見つめる。

 久弥さんは私の頬に触れ、ふっと微笑んだ。続けて覆いかぶさるようにして私を抱きしめると、そのまま彼はベッドに体を横たわらせた。

 彼の腕の中に閉じ込められた状態で、私は横を向く体勢になる。体が強張っているのに対し、頭の中はパニックだ。

「子どもの頃、俺もよく怖い夢を見たよ」

 なにも言えずにいたら、久弥さんは私の髪に触れながら穏やかな声色で呟いた。

「久弥、さんも?」

 軽く身じろぎし、おずおずと尋ねる。

「ああ。はっきり内容を覚えているときもあれば漠然としていたり。目が覚めたらとにかく不安で、祖父母の部屋によく駆け込んだ」

 今の久弥さんからは想像もできない。けれど、そうか。彼も子どもだったときがあるんだ。

 自分だけではないと、理解してもらえる安心感が口を滑らせる。

「……私も同じです。まだ起きていた母にお願いしてこうして一緒に寝てもらっていました」

 そこで気がつく。久弥さんが強引に私をここまで連れてきたのは、もしかして私の不安を見透かしての行動だったのか。
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