だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 冷静な自分の心の声に押し負け、肩を縮めて謝罪を口にする。

「す、すみません、こんな迷惑をかけておいて」

 そもそもいつまでこうしているつもりなのか。久弥さんも仕事で疲れているのに。妻ならそういった配慮もできないと。

 ところが、急いで久弥さんから離れようとしたら逆に強く抱きしめられた。

「俺も瑠衣に会いたかった」

 続けて耳元で放たれた言葉に目を見張る。上目遣いにちらりと久弥さんをうかがうと、彼は真面目な表情で私の頬に触れた。

「顔を見て、こうやって抱きしめたかった。だから迷惑じゃない。会いに、いや、頼ってくれてよかった」

 一瞬で視界が滲み、鼻の奥がツンと痛くなる。

 久弥さんに額に唇を寄せられ、目を閉じて受け入れた。続けて瞼、目尻に口づけられる。けれど次はなく、目を開けたら至近距離で彼と視線が交わった。

 見つめ合う形になり、ややあって久弥さんは眉間に皺を寄せたあと、私を解放した。

 密着していた箇所にこもっていた熱がさっと逃げていく。残念で寂しく感じながらもそれを振り払い、体を起こした彼に続く形で私もおとなしくベッドから下りる。

「さすがにこのままだと風邪を引く」

 久弥さんはため息混じりに呟き、ベッドの掛布団をめくり上げた。

「どうする?」

「え?」

 思いがけず問いかけられ反応に困る。すると彼は手のひらを上に向け、私に差し出した。
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