だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「さあ、どうだろうな」

「もし今度、久弥さんが怖い夢を見たら、そのときは私がそばにいますね」

 軽く返されたのに対し、力強く決意表明する。久弥さんは私の頭を撫でて微笑んだ。

「それも夫の特権か?」

 からかい混じりに返され、口を尖らせる。おそらく本気で受け止めていないんだろうな。けれど、それでかまわない。悪い夢は見なくていい。久弥さんが私を必要とする日は来なくて、来ない方がいいんだ。

「そう、ですね」

 久弥さんのそばにいられるのは、彼が優しくしてくれるのは、私が妻だからだ。でも私は……。

「久弥さん、だけです」

 ふと頭を撫でていた彼の手が止まる。おかげで微睡みそうになっていた意識が彼に向いた。

「もう眠った方がいい。明日も朝から病院に行くんだろ」

「……はい」

 余計な発言をしすぎたかと後悔しながらもおとなしく指示に従う。彼の言う通りだ。休まないと。

 目を閉じたら、頭に触れていた手が頬に伸ばされた。久弥さんの大きな手のひらの温もりに安心する。

 温かい。誰かがそばにいて触れられて、こんなにも心強く感じるなんて今までなかった。

『嫌な気持ちどころか、逆に求めてもらえるように努力するよ』

 久弥さんの言った通りになっちゃった。ならこの状況は彼が望んだものでもあるのかな?

 それ以上考えられず落ちるように眠りにつく。今度は夢を見なかった。
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