だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「お礼なんてかまいません。私は」

「わかっている、夫の特権なんだろう?」

 最後まで言わせてもらえず、目を白黒させる私に対し、久弥さんは余裕たっぷりに微笑む。

「なら妻をデートに誘うのも夫の特権じゃないのか?」

 その言い回しはずるい。いっそのこと光子さんに言われたからだとか、夫婦として怪しまれないためにって言われた方が割り切れるのに。

 悶々として返事を悩んでいると、久弥さんが口を開く。

「もちろん、無理にとは」

「無理なんてしていません!」

 反射的に否定したら、虚を衝かれた顔の彼が目に入り、視線を逸らす。こんなことでいちいち動揺してどうするんだろう。久弥さんはちゃんと割り切っているのに。

 冷静さを取り戻し、素直に行きたい場所を考える。

「観たい……映画があるんです」

 洋画のシリーズもの最新作で、どこかのタイミングで映画館に観に行こうと思っていた。もうすぐ公開が終了に近づいているからちょうどいい。

「なんて映画だ?」

 尋ねられて答えると、彼はスマホで調べ始めた。そこで自分の希望しか伝えていないと気づく。

「あの、久弥さんが他に観たいものがあるなら、別々に観てもかまいませんし、映画が終わってから合流しても」

「かまわない。俺もこのシリーズ、何作か観たことがあるよ。もう五作品目になるんだな」

 私の提案はあっさり却下され、スマホを見つめながら久弥さんはしみじみと呟く。
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