だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「関係ない。もともとあまり寝なくても平気な体質なんだ」

 宥めるように頭を撫でられる。

 額面通り受け取ってもいいものか。私の顔色を読んだ久弥さんは苦笑した。

「むしろ瑠衣の幸せそうな寝顔を見ていたら、眠気を誘われる」

「なら……よかったです」

 思わぬ切り返しに微妙な返事しかできない。顔が熱くなってふいっと視線を逸らした。すると久弥さんは私の耳に髪にかき上げるようにして髪に指を通す。耳に触れた彼の指の感触にさらに体温が上がりそうだ。

「今日の瑠衣はまたいつもと雰囲気が違うな」

「な、なにか変ですか?」

 やっぱり気合いを入れすぎだった?

 髪は下ろしたまま今日は毛先を緩く巻いている。久弥さんは私の髪を気に入ってくれているから、くくったりまとめるのはやめてこの髪型にしてみたのだ。

「いや。可愛いと思って」

 さらりと褒められ硬直する。

 これは経験の差? 久弥さんにとってはきっとなんでもないことだ。

「ありがとうございます。久弥さんとのデートなので張り切ってみました」

 動揺を顔に出さないようにして言い返してみる。

「光栄だよ、奥さん」

 しかしどうやら彼の方が何枚も上手(うわて)だ。私が敵うわけない。

 もうすっかり慣れた彼の車の助手席に乗って、窓の外をぼんやり眺めた。

 天気はお世辞にもいいとは言えず、どんよりとした厚い雲に覆われ、今にも雪が降りだしそうだ。昼間だというのに太陽の光は遮られ、影もほぼできない。
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