だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 いつもなら寒さと暗さで気分も沈みそうになるが、今日は久弥さんと一緒だからか心が弾む。

 運転する彼の横顔をちらりとうかがう。

 今まで母や光子さんのお見舞いに行くためふたりで外出する機会は何度もあったが、こうしてプライベートで出かけるのは初めてだ。

 結婚願望はないって言っていたけれど、それなりに彼が異性と付き合ってきたのは普段の振る舞いからも感じられる。私の扱いも慣れたものだ。

 久弥さんは今までどんな女性と付き合ってきたのだろう。きっと美人で大人っぽい人ばかりなんだろうな。

 そこでふと、母の手術の帰りに彼が綺麗な女性と並んでいたのを思い出す。

「どうした?」

「あ、いえ」

 信号が赤になったタイミングで、久弥さんから声をかけられる。どうやら視線に気づかれるほどあからさまに彼の横顔を見つめていたらしい。言い訳しないといけない気がして必死に考える。

「こ、こうやって久弥さんとデートするのは、最初で最後かもしれないから貴重だなって」

 私の回答に久弥さんは目を丸くしたが、信号が変わったのですぐに前を向いてアクセルを踏んだ。妙な沈黙が車内に下りてきて、変な汗をかきそうになる。

 もしかして嫌みっぽく聞こえた? この関係は期間限定のもので、ちゃんと割り切っているっていうのも伝えようとしたんだけれど……。
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