だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 ほどなくして目的地である大型のショッピングモールに着く。

 この前までお正月のめでたい雰囲気に彩られていたのに、今はバレンタイン一色だ。どこのお店もバレンタイン商品を打ち出し、イベントスペースでは国内外の有名チョコレートメーカーが所狭しと並び、人々が列をなしている。

 車にコートは置いてきたが、人の熱気と暖房が合わさり逆に暑いくらいだ。

「すごい人ですね」

「はぐれるなよ」

 ぽつりと呟くと、前を歩いていた彼から素早く返される。大丈夫だと答えようとしたら、その前にさりげなく左手を取られた。

「あ、あの」

「ほら、行こう」

 うろたえる私をよそに久弥さんは顔色ひとつ変えない。

 歩くの遅かった? 不安が立ち込めそうになったが、そこで久弥さんの歩調がやや緩められたと気づく。

 私に、合わせようとしてくれているんだ。

 思い返すとこの結婚生活自体がそうだ。なんだかんだで久弥さんは私を強く突き放したりしない。契約結婚でも彼なりに私に寄り添ってくれている。今だって――。

 思いきって指先に力を入れ、取られている手を自分から握ってみる。すると久弥さんも握り返してくれた。

 夫婦や恋人というより、子ども扱いなのかもしれない。それでもいい、離さないでほしい。今だけでも、この温もりは私だけのものだ。

 そろそろ公開終了が近づいていたので、私たちの観る映画は他に比べると空いていた。
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