契約彼氏とロボット彼女
第一章
今の暮らし
【 貧乏 】
これは、俺の人生をリアルに苦しめ続けている究極の二文字。
高校卒業式の翌日、母親から「颯斗ならしっかりした子だから大丈夫」と意味不明な理由を叩きつけられて、生活苦の家から追い出された。
就職難のこの時世。
卒業時に就職の内定を貰えぬまま都心部進出を決意。
友人宅を転々としながらフリーター&就職活動の日々を余儀なくされた。
だが、一年目に彼女と同棲したいという理由から友達の家を追い出されて一人暮らしの現在に至る。
住まいは築四十五年のボロアパート1Kの一室。
木造二階建ての六世帯が住む小さなアパートは、都会化が進む街並みにそぐわない昭和の香りが漂っている。
白いTシャツにブルージャージ姿で円形のちゃぶ台に並ぶ朝食は椎茸ソテー、さやえんどうの味噌汁、目玉焼き、白米。
24インチの小さなテレビと向き合い、茶碗を片手に咀嚼する。
『本日のトップニュースです。大手ゼネコン 黒崎建設と全国に外食チェーン店を展開している田所ホールディングスの事業提携が発表されました。黒崎建設は田所ホールディングス傘下のすまいる寿司の……』
「はぁ……」
テレビを観ていていつも思うけど、こーゆー財閥一家って貧乏人の俺のように金の心配をした事がないんだろうな。
プール付きの豪邸に暮らしていて、外車を複数台所有していて、専用料理人がいて、自家用ジェットを持っていて、自由自在に世界旅行。
明日の食事の心配とか、家賃の心配とか、税金の納入日とか。
俺みたいにギリギリの生活を送ってる人とは暮らしっぷりが天地の差なんだろうな。
今はバイトの合間を縫って就職活動をしている。
家庭菜園が趣味じゃなくて、しなきゃ生活が成り立たない。
椎茸もさやえんどうも純国産と言えば聞こえはいいけどベランダ産だ。
颯斗はテレビの向こう側の別世界に差を感じながらも、画面左上部の時間を見た瞬間、箸を置いた。
「やっべ! もう8時38分じゃん。早く職場へ行かないと……」
颯斗はテレビを消してから台所のシンクに食器を下げて、ボディバッグを背負ってから部屋を後にした。
黒崎建設と田所ホールディングスの事業提携のニュースを観た時点では他人事だと思っていた。
金持ちには金持ちの事情が。
そして、貧乏人には1ミリたりとも無関係の話だと。
でも、このテレビモニターの向こう側の話が、ロボットのような堕天使の登場と共に我が身に振りかかってくるとは思いもしなかった。
< 1 / 120 >