契約彼氏とロボット彼女
想い
田所家を出て両親が車に向かってる最中、沙耶香は二人から外れて枯山水の庭へ散歩に出たオーナーの背中を追って声をかけた。
「オーナー!」
背中から大きな声を浴びたオーナーは沙耶香へ振り返ると、いつものように優しく目尻を細めた。
沙耶香はオーナーの前で足を止めて、胸に拳を当てて息を整える。
「どうして沙耶香を助けてくれたんですか。オーナーは瞬さんの祖父なのに…」
本当は私が一番迷惑かけていた。
瞬さんとの結婚式で颯斗さんの気持ちに応えてしまったどころか、結婚式ギリギリまで颯斗さんと同棲していたし、期限を決めていたとはいえ恋を楽しんでいたのだから。
すると、オーナーは顔色一つ変えずに言った。
「沙耶香ちゃんを助けた訳ではない」
「えっ」
「今回集まっていただいた皆に結婚について考え直してもらいたかった。どうやら、我々は政略結婚という古いしきたりに縛り付けられていたようだ。沙耶香ちゃんと颯斗くんの幸せそうな姿を見ているうちに色々考えさせられたよ」
「……」
「どんなに温かい食事を作っても、冷えきった家庭では美味しくいただけない。外食産業を営む者として一番大事なことが欠けていたようだ」
「オーナー……。あっ! それと…もしかして、結婚式の日にチャペルから抜け出した私達をエレベーターの中にかくまってくれたのは……」
結婚式当日、チャペルから抜け出した私と彼はいつ捕まってもおかしくない状態だった。
何処に足を向けても追いかけてくる側近やホテル授業員。
私達は逃げる事に精一杯で、他の事に目を向ける余裕はなかったけど……。
冷静に考えてみたら、エレベーターの中にかくまってもらえたからこそ手にした結果もあった。
「沙耶香ちゃんはどうだと思う?」
「えっ」
「はっはっは。ご想像にお任せするよ。これからは人の目を気にせずに気持ちを大切にしていきなさい。そして、真の幸せを掴み取りなさい。それが、小さな居酒屋を営む店主からの最後のメッセージだよ」
オーナーはそう言って沙耶香の肩を二回トントンと叩くと、庭の奥へ足を進めて行った。