契約彼氏とロボット彼女

焦る母親




沙耶香の父親は調査書の情報を頼りに、車でとある場所へ出向いた。

専属運転手の手で開かれる扉。
降車したばかりの父親が見上げた先は、都内近郊にある都営住宅の颯斗の実家。


広大な敷地の中から棟と部屋番号を確認して、狭いコンクリートの階段を一人きりで上る。
時刻は午後7時過ぎ。


父親はインターフォンを押して待つと、スピーカーから女性の声が届く。



「はい。どちら様ですか?」

「夜分遅くに申し訳ございません。私、黒崎建設の黒崎守と申します」


「……っ。黒……崎さんですか。少々お待ちください」



颯斗の母親はインターフォンの受話器をかけてから5秒もしないうちに玄関扉を開けた。


ガチャ……


白髪混じりの一本結びの髪型に、白いワイシャツに羽織ったエプロン姿で登場した颯斗の母親。
二人は初対面を果たすと、沙耶香の父親は深々と頭を下げた。



「出向くのが大変遅くなりましたが、あの時は申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます」

「……黒崎さん」



母親が困惑した表情でそう呟いた後に、部屋の奥から三男の幸斗がやってきて声をかけた。



「ねぇ母さん、誰?」

「あっ、大切なお客様なの。少し外に行ってくるからお留守番をお願いね」



母親はすかさずエプロンを外して幸斗に押し付けてサンダルを履き、沙耶香の父親と一緒に外へ向かう。

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