契約彼氏とロボット彼女
彼女の条件
沙耶香は頬をピンクに染めて胸の前で腕をクロスさせる。
右京はそれに反応するかのように片膝あげて物凄い剣幕で睨みつけた。
右京「うぐぐっっ! (貴様…お嬢様の胸を見つめるとは……)」
「ちょっとちょっと! 変な誤解してない? 胸は一切見てないから落ち着いて!」
俺は何も言ってないし何もしてないのに、聞き取り情報一つでなんか面倒臭い展開に移行してるし。
「……もういいや、その話はやめよう。話は戻すけど、給料が入ったら借りた金は返すよ」
「わかりました。では、無利子でお貸しします」
「それは有難いけど……、条件があるんだろ」
「はい。昨日も少し申し上げた通り、契約彼氏として一ヶ月間私と一緒に暮らして下さい」
颯斗は契約彼氏の件は念頭にあったが、プラスαの提案に耳を疑った。
「は? 一緒に暮らす? 何処で?」
「この家です」
沙耶香は瞼一つ動かさず目を見つめたままさらりと言った。
だが、颯斗は提案を鵜呑みにしない。
「ふっ……無理だろ。あんたみたいなお嬢様がこんなボロっちいアパートで暮らせるわけないだろ」
「中傷ですか? それとも差別ですか? 実は颯斗さんと一緒に暮らす目的で家を出てきたので、追い払われても帰る家がありません」
「はぁああ?! 何て事をするんだよ! まだ一緒に暮らすなんて言ってないし。家族に家出した事を素直に謝って自分家に戻れ!」
「嫌です、帰りません。一ヶ月だけでいいんです。私だけの契約彼氏になって下さい。一ヶ月経ったら颯斗さんの元を去りますから。それまでは本物の彼女のように扱って下さい。お願いします」
沙耶香は切羽詰まった目でそう言うと、深く頭を下げた。
颯斗は無謀な言動に困惑しつつも、沙耶香の真剣度に首を傾げる。
「ねぇ、なんか訳ありっぽいけど……。どうして一ヶ月間なの?」
俺は、どうして一ヶ月という期間に拘っているのか、昨日から疑問を感じていた。
「それは聞かないで下さい。ただ、一緒に暮らすにあたって条件が一つあります」
「うん、何?」
「家を留守にすることがあっても、干渉したり素性を調べたりしないで下さい」
「どうして?」
「とっ、とにかく。……もし、違反された場合は利子を100%に釣り上げます」
「(既に利子じゃなくなってるし)飴と鞭だな……。俺と一緒に暮らしたいけど素性は知られたくないって事ね。了解。……で、あんたの名前は?」
「沙……サヤ……です。サヤと呼んで下さい。向かって右に座るのが左京。左に座るのが右京。彼らは私のボディガードです」
「ボディーガードがついてるという事は相当なお嬢様なんだよな……。名前はわかったけど名字は?」
「それは個人情報に当たりますので」
俺の個人情報は隈なく調べたクセに、自分の情報はシャットアウトかよ。