契約彼氏とロボット彼女
第四章
つけ込まれる現実
翌日、午前中のコンビニ勤務中。
颯斗はフライヤーの前で作業をしたまま、真横で作業をしているバイト仲間の専門学校生の谷中に昨日と一昨日の珍事を伝えた。
「その女の子マジで変わってますね。100万円をポーンと出せるくらいお金持ちなんでしょ。胡散臭い契約も気になるなぁ」
「だろ。三人揃ってビシッとスーツ姿でキメてきたから威圧感が半端なかったよ。見た目から怪しくて何を企んでるか見えてこないんだよなぁ」
「……もしかして、人身売買が目的じゃ。最終的に外国に連れて行かれちゃったりして」
「脅かすなよ。300万円を差し出された時はマジでビビったから」
「どうせ契約するなら300万円を先に貰っちゃえば良かったんですよ。未納分の家賃を勝手に立て替えられた挙句に、後日返却するんでしょ? 鈴木さんにメリットないじゃないですか。ってか、100万円を支払われちゃったって事は逆に差し引きで損してません?」
「あ! 言われてみれば確かに……。この二日間で金が出たり引っ込んだりして頭ん中がいっぱいになってたから、そこまで考えてなかった……。早く大家の所に行って差額分を回収して来なきゃ」
「も〜、何やってるんっスか。借金増やしてどうするんですか」
「確かに。……でもさ、普通に考えて赤の他人からそんな大金を受け取れないよね。家を追い出されそうになってたから、結局金を借りなきゃいけない運命だったんだろうな……」
貧乏が故につけ込まれる現実。
情けない事に未納分の家賃が足枷になって契約してしまった。
自分に腹が立つというより正直呆れている。
「契約終了したら彼女がその後に求めてるものは何ですかね」
「えっ……」
「本物の恋人? それとも、キッパリと割り切って別の契約者を探すのかな。彼女は300万円を払っても構わないくらいの事情を抱えてるんでしょ」
「……」
俺は今日から契約彼氏生活がスタートする。
彼女がどんな事を求めてくるかわからない。
不安は残るものの同棲に違いない。
100万円払ってでも俺の傍に居たい理由は。
時間がないとはどういう意味なのか。
俺はサヤという素性を知らない女性とマンツーマンで向き会う生活が今日から始まる。