契約彼氏とロボット彼女
第六章
腕枕
サヤと知り合ってから十二日目。
朝、目が覚めたら彼女の頭が俺の腕の上に乗っていた。
どうやら寝ている間に寝ぼけて腕枕をしていたらしい。
長いまつ毛に白い肌。
ぷっくりとした桜色の唇。
腕にほんのりとぶつかる寝息。
無邪気で人形のような可愛さが視界に飛び込んできた瞬間、ぐわんと目眩に襲われた。
性格は捻くれてるところもあるけど、直球しか投げれないほど不器用な恋愛スタイル。
今までどうやって生きてきたんだろうって疑問に思うほど。
もし、彼女が100万円を持って現れたのが俺じゃなくて別の男の所だったらと思うと……。
サヤの事を思い描きながらボーッとした目で顔を見つめていたら、彼女は突然パチっと目を開いた。
「アッ……、えっ!! どうして颯斗さんがサヤに腕枕を……」
サヤは目と目が合うなり、顔を真っ赤にさせながら反対側を向いた。
俺はサヤが赤面した姿を見た途端、現実に引き戻されて心臓がバカみたいに暴れ出した。
ドックン…… ドックン……
「あっ……、おっ俺もいま目を覚ましたばかりだからビックリしていて……」
嘘つき。
5分間くらい可愛いなと思ってマジマジと顔を眺めていたクセに。
「そ……だったんですか。恥ずかしい……」
「ごめんっ! じゃあ朝食準備に取り掛かるから」
と言って恥ずかしさをかき消すかのように起き上がろうとした瞬間……。
サヤの右手が俺の腕を押さえた。
「待ってください……」
「えっ……」
「あと5分……、このままでも……いいですか」
「あっ、ああ……」
「あと5分だけ……。5分経ったら頭を上げますから……」
謙虚にそう言いながら、僅かに身体を震わせている彼女。
こっちまで緊張が伝わってきた瞬間、サヤの頭が重いとか感じる余裕もないほど腕は石のように硬直してしまった。
サヤの言動が人間国宝級クラスに可愛いくて思わず魂が抜けそうになった。
俺はどうやらストレート球に弱いらしい。