契約彼氏とロボット彼女
迷子になりたくない
ーーそれから二分後。
颯斗はもやしを手にしたまま人の流れを遡って、もやし売り場から沙耶香まで残り半分くらいの地点で言った。
「サヤ、今からもやしを一袋投げるから受け取って。受け取ったら先に会計してきて」
「わかりました。しっかり受け取るので投げて下さい」
「オッケー。じゃあ、行くよ」
と言って、颯斗が思いっきり投げて宙に浮いたもやしだったが……。
半分付近を通りかかった時、突然人混みの真ん中辺りで誰かの手がスッと伸びてもやしをパシッと受け取った。
すると……。
「そこのお兄さん、このもやしは貰った! 売り場まで手が届かなかったから助かったわぁ〜。ありがとね〜」
五十代くらいの女性が、俺がサヤへ投げたもやしを手にしたまま人混みの中へと消えて行った。
想定外の事態に目が点に。
「あ……れ……」
「玉入れ競争に失敗したみたいですね。やっぱり一世帯一袋にしなかったバチが当たったみたいです」
未だに不機嫌な沙耶香はチクリと嫌味を言う。
颯斗は人の流れから抜けると沙耶香の元へ。
「もやしは品切れになったから一袋で諦めるしかない。次のタイムセールまで1時間くらい余裕があるから、店内で激安品を探していこう」
そう言って、再び食品コーナーへ戻ろうとしたその時。
沙耶香は颯斗のTシャツの背中部分の裾をぎゅっと引いた。
颯斗はそれに気付いて振り返る。
「サヤは迷子になりたくありません」
沙耶香はスーパーに入るのが初めてどころか、人混みが不慣れな上に激安商品を求めている客の活気あふれる店内に圧倒されていた。
だが、そんな気持ちなど知るはずもない颯斗は、まるで幼稚園児のような言いぶんに思わず吹いた。
「じゃ、はぐれないように手をつなごっか」
笑顔でそう言うと、沙耶香の目の前にスッと手を差し出した。