君とふたりで。
3時間たっぷり歌いきると、それぞれの帰路についた。
…なんという偶然だろうか。
しばらく歩いていると、前からチャリが来た。
「一紀!」
「おぅ、咲良じゃん」
そのチャリに乗った人の正体は、さっき噂していた一紀だった。
「どしたん? こんなとこで」
「今カラオケ行ってきたの!」
「そっかぁ…」
力なく言葉を発する一紀。
気のせい?
元気がない、というか。
様子がおかしい、とまではいかないが、少し違和感を感じた。
いつもならあたしの話、聞いてくれるのに。
でも、「どーしたの?」と聞くほどでもなさそうだったから。
あえて触れなかった。
「…あ、俺これから用事あるんだよね」
「そーなの? 友達?」
「うん。フミとデート」
名前を言ってくれて、なんだかホッとした。
フミさんは一紀の仲良しの友達。
「嫉妬した?」
「なんで?? フミさん男じゃん」
「冗談だわ!」
いつもと変わらないやりとり。
…そのはずなのに。
あたしはなぜかモヤモヤする。