君とふたりで。
この違和感こそが、“予感”だったのではないかと…今なら思える。
「んじゃ、暗いから気を付けてな」
「ありがと」
「…咲良」
一紀はチャリにまたがって、片足に重心を置いたまま、あたしの名前を呼んだ。
手が伸びてきて頭に触れる。
そして、その手を自分の方に引き寄せた。
キスされる
そう思い、咄嗟に顔を離す。
一紀は一瞬戸惑ったようにも見え、次には悲しそうな表情になった。
「…あ…ごめ…」
「咲良さ」
手はあたしの髪を撫でている。
「キスするの嫌??」
「えっ…」
唐突に、しかも直球で聞かれ、戸惑う。
…嫌、というか。
少なくとも好きとは言えない。
ただ一緒に帰って、一緒に喋って、メールして…
それだけで満足だから。
それ以上は望んでないの。
「………」
…なんて、言えない。
言えるわけがない。
「…ねぇ、駄目?」
「あの…」
「嫌いなの?」
「ち…がう」
「………」
一紀は強引だ。
それが気になることはある。