しののに愛を
次は君の番だと目線を向けた先。あ、の形で口を開いて、結局何も声に乗せずそのまま閉じた。
それから彼は何も考えていないような顔で、怠ける用に置いていた手前のコップを手に取り言葉を紡ごうとしていた口へ持っていく。いやそれ私の。
その手指は骨ばっていた。並の人よりも色が白く、ある時透き通っていたって驚かないかもしれない。
ちょっと嘘。それはさすがに腰抜かす。
でも彼をつくる全ての色素が薄いから、海にはよく馴染むだろうと思った。泡になっても優等生なのは間違いない。
目前の優等生は喉を上下させて水を飲み干すと、同じく目前の自分と目を合わせる。
そうして、それはもう楽しそうに笑ったのだ。チョコレートの甘さなんてゆうに超える、溶かした笑みを向ける。
ろくなことは言わないだろう。長年の経験談だ。
「いいよ、そうしよう、じゃあ僕は魔女ね。違うか、マオトコ?...なんか語呂良くないな、まあいいか。ある意味そうだし。
僕は優しいから声だけじゃなくて全部奪ってあげる。全部だよ、その海に沈めようとした王子様への恋心も、指一本すら残してあげない」