しののに愛を
...カラン
気づけば海は止んでいた。もうただの晴れで、空で、普通の夏の日にいる。
氷はもう夏に負けたように、隣同士ぶつからないくらいの小ささに変わっていた。
そうだ。
雨の降る前、アイスが食べたいとやはりテーブルの上にあるスマホと財布を持とうとしていた。
暑さと比例して蝉の声がじわじわ大きくなって、また汗ばんでいく。
戻ってきた、そんな気分だった。
つまらなそうに頬杖をつく男がいつも通りで、自分だけ夢でも見ていたのかと疑う。けれどコップは空のまま。
喉が渇いたな。手は届くのに、中身が入っていないのだから意味が無い。
そういえば海っていうのは塩水なんだっけか。
しょっぱいものは好みじゃない。どうやら、海の中でお姫様にはなれそうにないかもしれない。
「マオトコは愛が重いね」
「そんなの君が一番よく知ってるじゃん」
「間違いない」
「多分、愛って死より重いから。
───せいぜい沈まずにいてよ、オヒメサマ」