Cherry Blossoms〜偽りの絆〜

本番まであと一週間ほどになった頃、救急搬送をされた女性の検査を桜士が終え、彼女を玄関まで見送ってから救急科に戻ると、一花が熱心な表情で講演の原稿用紙を見ていた。その口元は、小さく言葉を紡いでいる。

「練習、順調ですか？」

桜士が訊ねると、一花は一瞬肩を大きく揺らす。そして相手が桜士だとわかると、安心したような顔を見せた。

「順調です！と言いたいところなんですけど、何だか緊張してしまって……。たまに噛んでしまうんです」

「なるほど……。緊張してしまうと噛んでしまいますね」

「実は講演をする学校が弟二人のいる学校で、二人も講演を聞くと思うので、きちんと話せるようにしたくて……」

「それはきちんと話せるようにしたいですね」

イルミネーションを見た時に会ったあの二人を、桜士は思い出す。姉として格好悪い姿は見せられないだろう。

「練習、よければ付き合いますよ。もう患者さんも帰りましたから」