Cherry Blossoms〜偽りの絆〜
雪のように真っ白なコートを着て、緩くウェーブがかった長い黒髪は毛先だけピンクに染められている。その後ろ姿を目にしただけで、桜士の胸は高鳴っていった。

「四月一日先生!」

彼女と話したい、そんな思いから桜士は近くにある停車ボタンを押し、足早にバスを降りる。そしてイルミネーションに集まる人混みの中、迷うことなく一花に近付いていった。

一花の後ろ姿が視界に入っただけで、人々の騒めきが一瞬にして消える。さらに近付いていけば、一花は視線に気が付いたのか、少し警戒した様子で振り返る。そして、驚いた様子で桜士が使っている偽名・本田凌(ほんだりょう)の名前を呼ぶ。

「本田先生、こんなところでお会いするなんて、驚きました」

一花の警戒は一瞬にして解けたようだ。フニャリと笑ったその笑顔に、桜士の胸が高鳴る。そして、先ほどまで体にあった疲れがどこかへ吹き飛んでしまう。

「僕も、四月一日先生に会えるなんて思っていませんでした。綺麗だったのでここに立ち寄ったんですが……」
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