もう、秘密になんて出来ないっ!

すると、兄の大きな手がそっとわたしの右手を掬(すく)い上げ、その手首に柔らかい感触。

「…え?」

眼を開けると兄はわたしの手首にキスを落としていた。

そして唇をゆっくり離すとそのまま上目遣いで、

「知ってる?手首へのキスは『本気』って意味」

ニヤリと笑んだ。

「っ、」

てっきり口にキスされると思い込んでいたわたしは自分の邪(よこしま)な考えに顔が一気に熱をもった。

は、恥ずかし過ぎる…!!

そんなわたしの思考なんて、いとも簡単に読んでしまう兄は、

「ちゃんとしたキスは、また後でな」

嬉しそうな表情(かお)でダイニングから出て行ってしまった。

わたしは暫し放心状態だったが、ハッといきなり我に返り、すでに冷めてしまっているココアを一気に飲み干した。

わたし、いったいどうしちゃったんだろう。

兄からの過度なスキンシップは慣れっこなはずだし、いつもあんな風だったじゃないか。

なのに何で、いまさら期待してしまったの?

求めてしまったの?
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