転生織姫の初恋

 それから、二人の秘密の逢瀬は続いた。
 織姫は放課後気が向くと保健室へ行く。そして、彦星を誘った。彦星は罪悪感を抱きつつも、彼女の誘惑に抗えないまま歪な関係を続けていた。
「織姫ー週末うち来いよ」
「今日? まぁ、べつにいいけど」
 しかし、学校で見かける織姫は、いつも男子生徒といた。特定の人間ではなく、いつ見ても違う男と楽しそうに話している彼女を見るたび、虚しさが彦星の胸を支配した。彦星がどれだけ愛を伝えても、織姫はその愛を返してはくれなかった。
「織……巡屋さん、あの……」
「あ、先生。昨日ぶりー」
 屈託なく笑う織姫。その隣で、男子生徒が怪訝な顔をして彦星を見た。
「……そろそろ授業が始まりますよ。二人とも、早く教室に戻りなさい」
「はーい」
 織姫と男子生徒は楽しそうに教室へ戻っていった。

 ――――――
 
 彦星は保健室に戻ると、自身のデスクに突っ伏した。
「はぁ……」
 昨夜の織姫の乱れた姿が頭から離れない。
 ひとつのベッドの中、もつれ合いながら織姫が呟いたのは、
『先生って、優し過ぎるよね。絶対織姫のことフレないでしょ?』
『どういう意味ですか?』
『織姫が浮気したとしても、たとえ人を殺したとしても、先生は織姫を見捨てないでしょ?』

 織姫が胸に抱きついたまま、彦星を見上げる。その姿はどうしようもなく彦星を昂らせた。腹の底から込み上げてくる熱に気付かぬふりをして、彦星は織姫の頭を優しく撫でる。
『……だって、そんなことあなたはしないでしょう。あなたは真面目ないい子ですから』
『……先生って、織姫を女神かなんかと思ってる?』
 織姫が苦笑交じりに彦星を見つめた。
『……あなたは私の女神です。いつだって――』
 いいながら、彦星は織姫の唇をゆっくりとなぞる。
『織姫はいい子なんかじゃないよ。先生、いつも織姫を見るたびに悲しい顔してるもん』
 織姫は伏し目がちに呟いた。
『そんなことありません』
『辛いなら、こんな関係やめたって』
 織姫がすべて言い終わらぬうちに、彦星はその口を塞いだ。
『……先生?』
『……嫌です……そんなこと言わないで。僕にはあなたが必要なんです』
 震える声で、彦星は織姫を求めた。
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