色を失くした世界で、私はあなたに恋をした。

 怜士に家まで送ってもらい、部屋に入ると玄関に男物の靴があった。すぐに臣のものだと気付き、美玲は声をかける。

「ただいまー……臣君?」
「……おかえり、美玲」
「来てたんだ」
「うん」

 臣は電気も付けず、美玲のベッドに座り込んでいた。

「あの、臣君。あのね、ちょっと話があるんだけど……」
「……ねえ美玲。あの男、誰?」

 臣は美玲を睨むように見上げる。
 
「え?」
「さっきの車の男。アイツ、前もここに来てたよな」

 射抜くような臣の視線に、美玲の心はドキリと揺れる。
 あの日美玲の部屋を出ていった臣は、入れ違うようにやってきた怜士の姿をやはり見ていたらしい。
 
(やっぱり見られてたんだ……! どうしよう、あの日私、朝霞さんとキスして)

 臣は動揺する美玲をじっと見つめていた。

「……なんて、俺が責められる話じゃないよな」

 臣は自嘲したように笑みを漏らした。その寂しげな横顔に、美玲の胸がぎゅっと締め付けられる。
 
(……もう誤魔化せない。傷付けるとしても、言わなきゃ……)
 
「……そのことなんだけど」

 美玲が口を開くと、臣はおもむろに美玲の腕を掴み、強く抱き寄せた。臣の腕の中でその温もりと匂いに包まれると、ときめきよりも罪悪感が胸を強く締め付けた。

「し……臣君?」
「嫌だ。別れるとか言うなよ……俺、美玲がいないと無理なんだよ。もう他の女とは遊ばないから、だから、お願い」

 臣の声は弱々しく震えている。臣の思いもよらぬ反応に、美玲は動揺を隠せない。

(……嘘。あっさり受け入れてくれるものとばかり思ってたのに)

 けれど、美玲の心はもう決まっている。
 美玲は意を決して口を開いた。

「……ごめんなさい。でも私、好きな人が」
「なんだよ、好きな人って……美玲と付き合ってんのは俺だろ? もしかして、浮気の仕返しのつもりか? それならもういいだろ。こんな冗談はやめて、これからはもっと仲良くしよう?」

(その通りだ……私は最低なことをしてる。でも、この気持ちに気付いちゃった以上は……)

「美玲。これからはもっと大切にするから」

 臣は美玲を抱き、ベッドに押し倒す。これまでにないほど優しく。

「待って……やめて、臣君。私、話がしたいの」

 臣は美玲の話も聞かず、服を乱していく。その手を掴んで拒もうとしても、臣の揺らぐ瞳と視線が絡むと、それ以上はどうしても拒めない。
 
「やだよ。美玲はきっと騙されてるんだ。お前のことだから、どうせ優しく抱かれてその気になったんだろ? だったら俺が……」
「ちょっ……」
 臣は、はだけた美玲の胸元にキスを落とす。温もりを与えられた肌は、その心とは反対に容易く熱を持っていく。
 
「違うの。私はずっと……」
「俺を捨てるの?」

 その言葉は、美玲の心を動揺させるには十分だった。
 
「す、捨てるって……」
「だってそうだろ! 俺に飽きたんだろ!」
「飽きたなんて、違う。そんなわけないよ」

 まるで子供のように駄々を捏ねたあと、臣は再び強く美玲を抱き締めた。そして、耳元で甘く囁く。
 
「安心して。俺はもう美玲しか抱かない。美玲以外いらない。だからさ、俺から離れていかないで。これからはいっぱい愛してあげるから」
「臣君……」

 美玲はそれ以上なにも言えずに、臣の愛を受け止めた。

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