色を失くした世界で、私はあなたに恋をした。

「美玲」

 自宅玄関の前までやってくると、そこには別れたはずの臣がいた。

「臣君……どうして?」

 臣は玄関の扉の前で小さく座り込んでいた。
 
「……鍵だけは直接渡そうと思って。インターホン押しても全然出てこないから、とうとう居留守使われたかと思ったわ」
「あ……ごめん」

 悲しそうに笑う臣から、美玲は目を逸らす。あの電話を最後に、美玲は臣と会っていなかった。

(どうしよう……なにを話せば)
 
「鍵はポストに入ってるから。今ちょうど帰ろうと思って、入れたとこ」
「……そっか。ごめんね。ありがとう」
「泣いてるの?」
「あ、いや、これは……」
 慌てて袖口で涙を拭う。
「……もしかして、あの男に泣かされたのか?」
 臣が美玲の顔を覗き込み、眉を寄せる。
 
「ち、違うよ。疲れが溜まってて、ちょっと目が痛かっただけ。泣いてなんかないよ」
「……相変わらず嘘が下手だな」

 臣は美玲を見つめ、小さく笑う。

「……ふられた?」
「……うん」
「……なら、俺とまた」

 臣の両手が美玲の肩に置かれる。しかし、美玲はその手をゆっくりと剥がすと、首を横に振った。

「そんなことできないよ。覚悟決めて別れたんだから。そんな都合のいいことできない」
「都合なんてどうだっていい……美玲、俺はお前が」
「藤咲さん!」

 臣の言葉を遮るように、突然背後から声がした。その声は美玲がよく知っていて、そして、美玲が誰よりも求めていた声だ。

「朝霞……さん?」
「藤咲さん……話をさせて」

 怜士は肩で息をしている。どうやら美玲と話すため、走って追いかけてきてくれたようだ。

「話……」

(正直まだふられたばかりで、心の準備ができていないのに)

「……聞かなきゃダメですか? 今は一人になりたいです」
「それでも、聞いてほしい」

 怜士の真っ直ぐな瞳に、美玲は仕方なく頷いた。
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