新そよ風に乗って 〜幻影〜
嘘。
何か、最悪な方向に進んでしまいそうな気配……。
今時の子は、まだ学生のノリが抜けないまま、何も怖いもの無しといった感じで思ったこともズバズバと言うから、聞いてるこっちがヒヤヒヤすると中原さんが言っていたけれど、まさしくそれを栗原さんは実践しているようだ。
何だか高橋さんには悪いけれど、関わりたくない気持ちが強くて、思わず後ずさりをした。
「あ、あの、私、やっぱり電車で帰ります。お疲れ様でした」
「矢島さん。お疲れ様でしたあ」
栗原さんが、満面の笑みを浮かべて元気よく挨拶してくれた。
何だか、モヤモヤした気分だけど、早くこの場を立ち去りたかった。
「キャッ……」
しかし、警備本部の方へと歩き出した途端、何故か引っ張られるようにして、エレベーターに乗せられてしまった。
「た、高橋さん。な、何ですか?」
「矢島さん。いいから乗って」
「で、でも……」
見ると、しっかり栗原さんもエレベーターに乗っている。
最悪だ……。
地下2階の駐車場に着き、エレベーターを降りると、当然のように栗原さんも一緒に降りてきた。
「ちょっと、此処で待ってて。車取ってくる」
「はい!」
返事はしたが、栗原さんが私の前に立ったので、その積極的な行動と大きな声で私の声はかき消されてしまっていた。
「あっ。聞いて下さい、矢島さん。明日、研修生達と部長さん以上の方々との懇親会があるんですって。凄く楽しみです。他の所属の格好いい人達も、来るかもしれないじゃないですか。それも楽しみなんですけど、同期のみんなに自慢しちゃいますからね。高橋さんのこと。絶対、一番格好いいと思うから」
「そ、そうなの。それは、楽しみね」
まるで、合コンのノリのような感じで捉えてないだろうか?
「それにしても、矢島さん。羨ましいなあ。いつも、そうやって高橋さんを独り占めしてるんですか?」
独り占め?
「そ、そんなことないわよ。ちょっと怪我をしちゃって、高橋さんが気を遣って送って下さって……」
「でも……」
な、何?
栗原さんが、高橋さんと一緒に居る時には決して見せない、朝、 『負けないから』 と
言った時と同じ怖い目をしている。
「矢島さんって、相当ブリッ子ですよね?」
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