新そよ風に乗って 〜幻影〜
幻影
高橋さん?
高橋さんが、私の左肩に頭をもたれかけてきていた。
疲れてるのかな?
ずっと、毎日忙しい日が続いているんだもの。疲れていないわけがない。だから、周りの人に呑まされていたのもあったけれど、疲れていたせいもあって、流石の高橋さんも酔いがまわってしまったのかもしれない。
このまま、高橋さんのマンションに着くまでそっとしておいてあげよう。そう思った矢先、高橋さんが目を開けた。
「悪い」
「い、いえ、大丈夫です」
「救ってやれなかった……」
高橋さん?
「せっかく、社会人としての第一歩だったのにな」
もしかして……。
「栗原さんのことですか?」
「ああ。俺の力不足だ。上を止められなかった」
そう言うと、高橋さんはシートのヘッドレストに頭を押しつけるようにして上を見ていた。
こんな時、どんな言葉を掛けてあげればいいんだろう。
今の私に、何が出来るんだろう?
高橋さんのために……。
「残念……ですね」
「……」
こんな言葉しか思い浮かばなくて、高橋さんに申し訳なかった。
だからかな。高橋さんは、何も返事をしてくれない。
それから長い沈黙が続いて、チラッと高橋さんを見た。
はい?
見ると、高橋さんは寝てしまっている。しかも、耳をすますと寝息が聞こえてきた。
高橋さん……。
ずっとドキドキしながら次の言葉を待っていたので、思わず拍子抜けしてしまった。
「この先は、どちらに……」
運転手さんから道を聞かれて、高橋さんを見たが、全く起きる気配がなかったので慌てて周りを見渡すと、見覚えのある大通りだった。
「あっ。そこを左に曲がって頂いて、その先の……えーっと……」
「取り敢えず、左に曲がりますね」
「は、はい。お願いします」
大通りを左に曲がると、もう1本の見覚えのある大通りに出た。
良かった。合ってる。
「あの、3つ目の信号の直ぐ先の左側のマンションなので、ロータリーまで入ってもらってもいいですか?」
「はい」
タクシーは、高橋さんのマンションの車路からロータリーまで行って停まってくれた。
「高橋さん。着きましたよ」
何度も肩を揺すると、やっと高橋さんが起きてくれた。
タクシーの運転手さんにお金を払おうとして、バッグからお財布を出した。
「ん? 着いたのか?」
あれ?
高橋さん。少し寝ぼけてるのかな?
「はい。もう、高橋さんのマンションに着きましたよ」
「そうか。ああ、いい。俺が払うから」
「あっ。でも……」
高橋さんは、運転手さんに料金を払って先に降りてしまったので、慌てて私もタクシーから降りた。
「お世話様でした」
「ありがとうございました」
タクシーから降りると、高橋さんが目の前に立っていた。
「あの、私。電車で……うわっ」
高橋さんがいきなりの私の手首を掴むと、そのままマンションのエントランスの方へと歩いて行こうとして強引に引っ張った。
「高橋さん。あの……私、帰りますから。離して下さい」
「ん?」
うっ!
ち、近いです。近過ぎですって、高橋さん。
いきなり振り返った高橋さんの顔が間近に迫ってきて、思わず体を引いた。
「少しだけ寄っていけ。何だったら、泊まっていってもいいぞ?」
「と、とんでもないです。帰りますから」
と、泊まっていってもって……。
高橋さんが、私の左肩に頭をもたれかけてきていた。
疲れてるのかな?
ずっと、毎日忙しい日が続いているんだもの。疲れていないわけがない。だから、周りの人に呑まされていたのもあったけれど、疲れていたせいもあって、流石の高橋さんも酔いがまわってしまったのかもしれない。
このまま、高橋さんのマンションに着くまでそっとしておいてあげよう。そう思った矢先、高橋さんが目を開けた。
「悪い」
「い、いえ、大丈夫です」
「救ってやれなかった……」
高橋さん?
「せっかく、社会人としての第一歩だったのにな」
もしかして……。
「栗原さんのことですか?」
「ああ。俺の力不足だ。上を止められなかった」
そう言うと、高橋さんはシートのヘッドレストに頭を押しつけるようにして上を見ていた。
こんな時、どんな言葉を掛けてあげればいいんだろう。
今の私に、何が出来るんだろう?
高橋さんのために……。
「残念……ですね」
「……」
こんな言葉しか思い浮かばなくて、高橋さんに申し訳なかった。
だからかな。高橋さんは、何も返事をしてくれない。
それから長い沈黙が続いて、チラッと高橋さんを見た。
はい?
見ると、高橋さんは寝てしまっている。しかも、耳をすますと寝息が聞こえてきた。
高橋さん……。
ずっとドキドキしながら次の言葉を待っていたので、思わず拍子抜けしてしまった。
「この先は、どちらに……」
運転手さんから道を聞かれて、高橋さんを見たが、全く起きる気配がなかったので慌てて周りを見渡すと、見覚えのある大通りだった。
「あっ。そこを左に曲がって頂いて、その先の……えーっと……」
「取り敢えず、左に曲がりますね」
「は、はい。お願いします」
大通りを左に曲がると、もう1本の見覚えのある大通りに出た。
良かった。合ってる。
「あの、3つ目の信号の直ぐ先の左側のマンションなので、ロータリーまで入ってもらってもいいですか?」
「はい」
タクシーは、高橋さんのマンションの車路からロータリーまで行って停まってくれた。
「高橋さん。着きましたよ」
何度も肩を揺すると、やっと高橋さんが起きてくれた。
タクシーの運転手さんにお金を払おうとして、バッグからお財布を出した。
「ん? 着いたのか?」
あれ?
高橋さん。少し寝ぼけてるのかな?
「はい。もう、高橋さんのマンションに着きましたよ」
「そうか。ああ、いい。俺が払うから」
「あっ。でも……」
高橋さんは、運転手さんに料金を払って先に降りてしまったので、慌てて私もタクシーから降りた。
「お世話様でした」
「ありがとうございました」
タクシーから降りると、高橋さんが目の前に立っていた。
「あの、私。電車で……うわっ」
高橋さんがいきなりの私の手首を掴むと、そのままマンションのエントランスの方へと歩いて行こうとして強引に引っ張った。
「高橋さん。あの……私、帰りますから。離して下さい」
「ん?」
うっ!
ち、近いです。近過ぎですって、高橋さん。
いきなり振り返った高橋さんの顔が間近に迫ってきて、思わず体を引いた。
「少しだけ寄っていけ。何だったら、泊まっていってもいいぞ?」
「と、とんでもないです。帰りますから」
と、泊まっていってもって……。