新そよ風に乗って 〜幻影〜
「主治医として、これ以上、患者さんを走らせるわけにはいかない。ドクターストップね」
「明良さん……」
顔を上げると、明良さんが優しく微笑んでいた。
「隠し事はいけないって、この前も言ったでしょう? 診たところ……。また今日は、心中穏やかじゃない感じの顔してるけど、何かあったあ?」
ああ。やっぱり明良さんに、何かあったと悟られてしまった。
優しく微笑んでくれている明良さんの顔を見たら、一気に涙が溢れてしまっていた。
「いつも陽子ちゃんは、俺と会う時は大変そうな時だよね。決まって泣きそうな顔してるし……って、もう泣いてるね。貴博は、こんな時間に女の子を一人で帰すなんて、どうかしてるよ。全く……」
「いえ、そ、そうじゃないんです。私が勝手に……勝手に、帰ってきてしまったから、それで……。だから、高橋さんは何も悪くないですから」
「陽子ちゃん……」
高橋さんにあんなことをされたのに、それでも自然と高橋さんを庇ってしまっている。そんな自分が、何だかやるせなくて哀しいけれど、それでもやっぱり高橋さんを憎めないんだと分かり、そんな自分に驚いていた。
本当は、分かっている。
さっき高橋さんが私にキスをしたのは、相手が私と分かっていてキスをしてくれたんじゃない。ミサという人と私を間違えただけ。そう、間違えただけ。ただ……それだけのこと。
ただそれだけのことなのに、それなのに……。
酔った高橋さんが、相手を間違えてしたキス。
哀しくて、虚しくて、間違えただけなのに何でこんなに心が激しく波打つのだろう。そんな自分が滑稽にさえ思える。
馬鹿みたい。私が、いったい何を失ったというんだろう? 何も失ってなんかいないのに、この虚脱感と哀心は何なんだろう。
止まらない涙を何とか止めようとして、明良さんに向かって無理に笑顔を作って見せたが、上手く笑えずに、笑みを作った目から涙が溢れ出してしまい、慌てて左手の人差し指と中指で涙を拭った途端、いきなり周りの景色が見えなくなっていた。
エッ……。
「泣いていいよ」
明良さんに、抱きしめられていた。
「俺の前では、我慢しなくていいから」
明良さん……。
明良さんは、きっと私のことを思って……。
「明良さん……」
顔を上げると、明良さんが優しく微笑んでいた。
「隠し事はいけないって、この前も言ったでしょう? 診たところ……。また今日は、心中穏やかじゃない感じの顔してるけど、何かあったあ?」
ああ。やっぱり明良さんに、何かあったと悟られてしまった。
優しく微笑んでくれている明良さんの顔を見たら、一気に涙が溢れてしまっていた。
「いつも陽子ちゃんは、俺と会う時は大変そうな時だよね。決まって泣きそうな顔してるし……って、もう泣いてるね。貴博は、こんな時間に女の子を一人で帰すなんて、どうかしてるよ。全く……」
「いえ、そ、そうじゃないんです。私が勝手に……勝手に、帰ってきてしまったから、それで……。だから、高橋さんは何も悪くないですから」
「陽子ちゃん……」
高橋さんにあんなことをされたのに、それでも自然と高橋さんを庇ってしまっている。そんな自分が、何だかやるせなくて哀しいけれど、それでもやっぱり高橋さんを憎めないんだと分かり、そんな自分に驚いていた。
本当は、分かっている。
さっき高橋さんが私にキスをしたのは、相手が私と分かっていてキスをしてくれたんじゃない。ミサという人と私を間違えただけ。そう、間違えただけ。ただ……それだけのこと。
ただそれだけのことなのに、それなのに……。
酔った高橋さんが、相手を間違えてしたキス。
哀しくて、虚しくて、間違えただけなのに何でこんなに心が激しく波打つのだろう。そんな自分が滑稽にさえ思える。
馬鹿みたい。私が、いったい何を失ったというんだろう? 何も失ってなんかいないのに、この虚脱感と哀心は何なんだろう。
止まらない涙を何とか止めようとして、明良さんに向かって無理に笑顔を作って見せたが、上手く笑えずに、笑みを作った目から涙が溢れ出してしまい、慌てて左手の人差し指と中指で涙を拭った途端、いきなり周りの景色が見えなくなっていた。
エッ……。
「泣いていいよ」
明良さんに、抱きしめられていた。
「俺の前では、我慢しなくていいから」
明良さん……。
明良さんは、きっと私のことを思って……。