新そよ風に乗って 〜幻影〜
「ちょっと、お茶飲んでいこうよ」
まゆみは私の手首を掴むと、横断歩道を渡って駅地下のいつものコーヒー屋に入った。
「アメリカーノ2つ」
ちょうど、2人掛けの席が空いていたのでそこに座ると、まゆみがコーヒーをテーブルの上に置いて腕を組んだ。
「何があったの? ハイブリッジ関係?」
黙って頷くと、まゆみがコーヒーを一口飲んでいた。
「話してごらん。このまゆみ様なら、解決出来るかもしれないよ?」
「うん……。あのね……」
明良さんに話したとはいえ、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。すんなりと、まゆみにこの前の送別会の帰りにあった出来事を包み隠さず話し、その後、高橋さんは何も言ってこないことと、拒絶してしまっている自分のことも話した。
「何、やってんだよ。あの男」
まゆみはそう言って、大きな溜息を突いた。
「で? そのことが原因で、陽子はもうハイブリッジが嫌いになったんだ?」
「嫌いになった?」
私が、高橋さんを?
「そう。前みたいに、好きじゃなくなったんでしょう?」
「まゆみ……」
「だって、そうじゃない。話聞いてると、酷いことされたからハイブリッジのことを拒絶するようになったわけでしょ? だったら、もう何も悩むことなんてないんじゃない?」
「そ、そうなんだけど……」
確かに、まゆみの言う通りなんだと思う。
酷いことをされて、それでそのことが原因で高橋さんを拒絶するようになったんだから。でも……。
「もう、やめちゃいな。そんな男」
「まゆみ。私……」
「だいたいさあ……昔の女が忘れられないとか。おお、嫌だ、嫌だ。おまけに、あろう事かキスまでするなんて。そりゃ、最低だよ」
まゆみ。
「で、でもね。でも明良さんが、高橋さんのキスは挨拶代わりみたいなものだって言ってたのよ。だから、ちょっとニュアンスが違……」
「違うも何もないよ。陽子。悪いことは言わない。もう、ハイブリッジはやめといた方がいい」
「何で?」
すると、まゆみが今までとは違う真面目な表情で私を見た。
「ハイブリッジの女性遍歴を私はリアルに知らないけど、あの容姿とジェントルマンな性格からすると、恐らくとんでもなくモテたはず。でも、それとキスは挨拶代わりみたいなものっていう発想は違うと思うわ」
違うって?
「ハイブリッジほどの頭のキレる男子なら、キスが挨拶代わりにしていいことか、否かなんていうのは、即座に分かるはず」
「でも、明良さんが……」
「だからね。それは、その明良って人の苦し紛れのフォローになってない、フォローだったんだと思うよ。陽子を落ち込ませないためのね。ハイブリッジは、物事の分別のつく男子だから、挨拶代わりのキスなんて、とても出来そうにない感じだもん。勿論、飲み屋で知り合ったとか、それなりの女だったらまた話は別だけどさ」
まゆみは私の手首を掴むと、横断歩道を渡って駅地下のいつものコーヒー屋に入った。
「アメリカーノ2つ」
ちょうど、2人掛けの席が空いていたのでそこに座ると、まゆみがコーヒーをテーブルの上に置いて腕を組んだ。
「何があったの? ハイブリッジ関係?」
黙って頷くと、まゆみがコーヒーを一口飲んでいた。
「話してごらん。このまゆみ様なら、解決出来るかもしれないよ?」
「うん……。あのね……」
明良さんに話したとはいえ、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。すんなりと、まゆみにこの前の送別会の帰りにあった出来事を包み隠さず話し、その後、高橋さんは何も言ってこないことと、拒絶してしまっている自分のことも話した。
「何、やってんだよ。あの男」
まゆみはそう言って、大きな溜息を突いた。
「で? そのことが原因で、陽子はもうハイブリッジが嫌いになったんだ?」
「嫌いになった?」
私が、高橋さんを?
「そう。前みたいに、好きじゃなくなったんでしょう?」
「まゆみ……」
「だって、そうじゃない。話聞いてると、酷いことされたからハイブリッジのことを拒絶するようになったわけでしょ? だったら、もう何も悩むことなんてないんじゃない?」
「そ、そうなんだけど……」
確かに、まゆみの言う通りなんだと思う。
酷いことをされて、それでそのことが原因で高橋さんを拒絶するようになったんだから。でも……。
「もう、やめちゃいな。そんな男」
「まゆみ。私……」
「だいたいさあ……昔の女が忘れられないとか。おお、嫌だ、嫌だ。おまけに、あろう事かキスまでするなんて。そりゃ、最低だよ」
まゆみ。
「で、でもね。でも明良さんが、高橋さんのキスは挨拶代わりみたいなものだって言ってたのよ。だから、ちょっとニュアンスが違……」
「違うも何もないよ。陽子。悪いことは言わない。もう、ハイブリッジはやめといた方がいい」
「何で?」
すると、まゆみが今までとは違う真面目な表情で私を見た。
「ハイブリッジの女性遍歴を私はリアルに知らないけど、あの容姿とジェントルマンな性格からすると、恐らくとんでもなくモテたはず。でも、それとキスは挨拶代わりみたいなものっていう発想は違うと思うわ」
違うって?
「ハイブリッジほどの頭のキレる男子なら、キスが挨拶代わりにしていいことか、否かなんていうのは、即座に分かるはず」
「でも、明良さんが……」
「だからね。それは、その明良って人の苦し紛れのフォローになってない、フォローだったんだと思うよ。陽子を落ち込ませないためのね。ハイブリッジは、物事の分別のつく男子だから、挨拶代わりのキスなんて、とても出来そうにない感じだもん。勿論、飲み屋で知り合ったとか、それなりの女だったらまた話は別だけどさ」