新そよ風に乗って 〜幻影〜
「女ってさ……。一度好きになると、周りがどれだけ悪口言っても、止めても何しても、自分だけは分かってあげたい。せめて、自分だけでも信じてあげたい。みんな、本当の彼を知らないんだからとか、私には、周りが言うほど悪い男だとは思えない等々、何だかんだ理由つけて、自分の好きな人を庇護するのよね。勿論、私も女としてその気持ちは十二分に分かる。だけど、何処かで現実を直視出来る自分に目覚めないと、取り返しのつかない歳月が経ってしまってることもあるから。幸い、陽子はまだそこまでの年月をハイブリッジに費やしてはいないけど、このままの状態でいいのかどうか、一度考えてみた方がいいと思うよ? 相手の心の中には、まだ別れた女が住み着いてるんだから。何時、ハイブリッジの心の中から、いなくなるとも分からない女がね」
「うん……」
まゆみの言っていることは、正論なことは分かっていた。けれど、私もその女の本質のままの考えを持ってしまっているのかもしれない。持っているというより、もうそう思っているのだから。
「厳しい言い方かもしれないけど、敢えて私、陽子に言うのは、それだけ心配してるんだからね」
まゆみ……。
「こんな自画自賛的なことを言うのは、性に合わないんだけど、陽子が好きになった相手がハイブリッジだからかな」
「高橋さんだから?」
「そう。出来る男子だよ、あの男は。だけど、あまりにも謎が多過ぎる。このまゆみ様を持ってしても、出て来ない。分からないことだらけなんだから。ガードが堅いというか、それだけ根は真面目なのかもしれないけど。ハイブリッジの真の姿を知ってるのは、多分、その明良って人と、その友達の誰だっけ……」
「仁さん?」
「そうそう。その、仁って人だけなんじゃない?」
どうしたらいいんだろう?
このままの状態でいるのは、やっぱりよくないよね。
高橋さんを拒絶して、態度にまで出てしまってるんだから。
「まゆみ。私、どうしたら……」
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