新そよ風に乗って 〜幻影〜
「自分で考えな」
「まゆみ……」
「何てね」
そう言うと、まゆみは笑って見せた。
「まあ……。私だったらハイブリッジに、直接ぶつけてみるけどね」
「そ、そんなこと、出来ないって。私には、む、無理」
「あら? 簡単なことじゃない。ミサって人が、まだ好きなんですかあ? 何で、私にキスしたの? ってさ」
む、無理だ。そんなの怖くて聞けない。
高橋さんに直接聞くなんて、絶対無理。
「時間に制約があるわけじゃないから、ゆっくり考えればいいことなのかもしれないけどさ。自分の気持ちは、もう決まってるはずでしょ? そうだとしたら、勇気を出して聞いてみるのがいちばんなのよ。それが出来ないんだったら、自分の気持ちに正直には生きられない。避けて通れない道は、避けたら後退しかないの。先には、決して進めないから」
まゆみ……。
「でも、私と違って陽子はじっくり考えるタイプだから、自分のペースで考えて答えを出せばいいと思う」
「うん。ありがとう。まゆみ」
「どう致しまして」
まゆみに言われたことを肝に銘じて、少し落ち着きを取り戻していた。
高橋さんのことは、避けて通れない道。
答えを出すにしても、高橋さんに話すにしても……。
けれど、気持ちの整理のつかないまま、また今日も会社に着いてしまい、高橋さんの姿を見て見ぬふりをしながら仕事に没頭していた。
「矢島さん。ちょっと、いい?」
「は、はい」
高橋さんの声に驚いて顔を上げて返事をしたが、慌てたためか、思わず声が裏返ってしまった。
すると、高橋さんが隣に立っていた。
お願い……。
そ、それ以上、近づかないで欲しい。
「中原。Bに居るから」
「はい」
Bというのは、会議室のことを指している。
会議室で、いったい何の話が?
心臓の鼓動が速くなっていくのが、自分でも分かる。
改まって、会議室で話すことって……何?
緊張しながら高橋さんの後ろを歩いていくと、会議室のドアのスライド表示を高橋さんが使用中に変えてドアを開けた。
「入って」
「は、はい」
会議室の中に入ると、当たり前なのだが高橋さんがドアを閉めた。
その動作を見て、益々、緊張してしまい、膝がガクガクしている。
「掛けて」
「はい。失礼します」
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