新そよ風に乗って 〜幻影〜

「そ、そうですよ。本当に、勘違いしないで下さいね」
薬局で湿布薬をもらって病院からタクシーに乗って会社に向かっている間、昨日、高橋さんが言っていた　『俺は、恋愛に向かない男だから』　と、明良さんが言っていたことがダブって頭の中で何度も繰り返されている。けれど、それは確実に私の中に、高橋さんに対する信頼と愛情が存在していることを示していた。
月曜日で少し道路が渋滞していたせいもあって、会社に着くと、すでにランチの時間になっていた。
月曜日で忙しいのに、すっかり遅くなってしまった。しかし、こんな時に限ってエレベーターがなかなか来ない。
やっと来たエレベーターから、最後に降りる人が出てくるのを待って乗ろうとした時だった。
「矢島さん。ちょっと、いいかしら？」
エッ……。
誰？