新そよ風に乗って 〜幻影〜
しかし、やっぱり高橋さんには、その言葉は通用しなかった。
「もう、電話したから」
何となく分かってはいたが、そんなことで聞いてくれるような高橋さんではない。
はあ……。
でも足の痛みには勝てず、結局、高橋さんに押し切られる感じで明良さんの居る病院へと向かった。
病院に到着し、救急外来へと向かう。
その間も、車椅子に乗せて下さいと言ったのに、ずっと高橋さんは抱っこしてくれていた。
重いのに……。
救急外来で明良さんを呼んでもらって待合室で待っていると、5分ぐらいで白衣を着た明良さんが姿を見せた。
「お待たせーって、陽子ちゃんジャン。どったのお?」
明良さんは待合室の椅子に座ってる私を見て、笑顔で近づいて来た。
「会社の玄関のマットに足をとられて、痛めたみたいなんだ」
「そうなの? じゃあ、取り敢えず……3番の診察室に入って」
明良さんが救急外来の診察室を見渡して、電気が消えている3番の診察室を指さした。
「でも、陽子ちゃん。歩ける? 車椅子の方が、いいかな?」
「あっ、はい。キャッ……」
立ち上がろうとして、ゆっくり腰を上げようとしたら、高橋さんにまた抱っこされてしまった。
「ハハッ……。陽子ちゃん。その方が安心だね」
「えっ? そ、そんな……。あっ、あの……」
明良さんは笑いながら3番の診察室のドアを開け、高橋さんに診察室のベッドに私を寝かせるよう指示した。
「じゃあ、貴博。ちょっと、外で待ってて」
「ああ、よろしく」
直ぐに高橋さんは、診察室から出て行った。
「さてっ……と、ちょっと診せてね」
「はい」
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