新そよ風に乗って 〜幻影〜
部屋番号を確認したが、確かに合っている。おかしいな……。
取り消しを押して、もう1度部屋番号を押してインターホンを鳴らしたが、応答はなかった。
お留守?
高橋さんは車だから、どんなに渋滞していたとしても、本来ならもう着いているはず。
高橋さん。何処かに、寄ってるのかな?
それとも、明良さん達と飲みに行っちゃった? でも、それだったら車を置いてから出直すはずだ。
車……。
そうだ。車が駐車場にあるか、見てこよう。
エントランスを出て、高橋さんが停めているマンションの駐車場に向かう。暗くてよく見えないけれど、何となく高橋さんの車なら分かる気がする。
確か、この辺に停めてたような……。
けれど、辺りを見渡しても高橋さんの車は、何処にも見当たらなかった。
高橋さん……。
何処に、行ってしまったの? 何処に、寄っているの?
エントランスのソファーに座りながら、マンションの車路をヘッドライトが照らして車が入ってくるたびに見ていたが、高橋さんの車は一向に帰って来ない。そのうち、だんだん時間も遅くなってきて23時を過ぎてしまったため、駅までまた30分ぐらいかけて歩いて行かなければならず、終電の時間を見てこなかったのでそろそろ帰らなければならなくなってしまった。
駅まで歩きながら、それでも高橋さんの車に似ている車を見かけると振り返って見ていたが、どれも違っていた。
来る時よりは、少し覚えていたので距離も身近く感じたが、それでも駅までやはり30分はかかってしまったが、終電までにはまだ40分ぐらい余裕があった。こんなことだったら、まだマンションで待っていれば良かったな。そう思いながら、残念な気持ちのまま最寄り駅に着くと、流石に足が痛くていつも以上にスローペースで家まで歩いている。
帰ったら、高橋さんに電話してみようかな。だけど、もうこんな時間だからやめておいた方がいいかもしれない。電話をするのは、明日の朝にしよう。
痛い足を引きずるようにして、やっとの思いで最後の路地を曲がる。歩道を歩きながら、後ろから来る人にもう何人抜かされたか分からない。でも、もう直ぐ家に着く。良かっ……。
エッ……。
それは、10メートルぐらい離れていても、直ぐに分かった。
あれだけ待っていた。あれほど探していた、あの車。
何で?
どうして、高橋さんの車が私の家の前に停まっているの?
思わず、立ち止まってしまっていると、車の運転席のドアが開き、高橋さんが降りてこちらに向かってきていた。
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