新そよ風に乗って 〜幻影〜
「高橋さん……」
「こんなに遅くまで、何処に行ってたんだ?」
「そ、それは……」
どうしよう。
まさか、ずっと、高橋さんのマンションで待ってました。とは、何だか言いづらい。
「勤務時間でもないから、そこまで立ち入ることはしたくない。だが、怪我をしているお前が、今置かれてる立場を少しは考えろ」
高橋さん……。
「申し訳ありません……でした」
あろうことか、高橋さんに心配をかけてしまった。
高橋さんが何故、今此処に居るのかよく分からない。だけど、私が心配かけてしまったことだけは確か。
「ごめんなさい。高橋さん」
「お前、足が痛いんじゃないのか? 大丈夫か?」
エッ……。
足、確かに痛い。
高橋さん。そんな優しい言葉なんてかけないで。私は、高橋さんを裏切ってしまったのに……。
「どうした?」
下を向いたまま、何も言わないので、心配して高橋さんが私の顔を覗き込んだ。
ああ、もう私……。
「本当に、ごめんなさい。高橋さん。ごめん……なさい」
「そんなに、謝らなくていい」
そうじゃないの。
「そうじゃないんです。私……。本当に、ごめんなさい」
「いったい、何のことだ?」
俯いて視線を合わせられないでいるけれど、高橋さんがジッとこちらを見ているのが何となく分かる。
「私、どうしても高橋さんに謝りたくて。それで……」
謝らないといけないのに、なかなか次の言葉が出て来ない。
「ずっと考えていて、でもやっぱり高橋さんに謝ろうと思って、高橋さんのマンションに伺ったらお留守で……」
「お前、その足で俺のマンションまで行ったのか?」
高橋さんに呆れられてしまったかもしれないと思うと、直ぐには返事ができない。
「まさか、駅から歩いて行ったのか?」
思わず黙って頷くと、高橋さんが大きく溜息をついた。
「お前……。何で、電話しなかったんだ?」
電話?
電話なんて、思いもしなかった。
「電話……。電話なんかで、済む問題じゃなかったんです。電話なんて、できなかったです。だって、私……高橋さんを、騙してしまって……。それで、ずっと後悔してたんです。だけど、そのことを話してしまったら、高橋さんに迷惑がかかってしまうから。だから、言えなくて……。でも、これは私の勝手な言い訳で、高橋さんを騙したことには変わりなくて。だから、私……。高橋さんに会って、ちゃんと謝りたかったんです。でも、高橋さんがマンションに居なくて、帰ってこなくて……。だけど、終電がなくなってしまうからと思って、だから帰りが今になってしまったんです。ごめんなさい。高橋さん。私、高橋さんに嘘をついていました。明日、渋谷で待ち合わせをしたのは……。あれは、その……宮内さんに頼まれたからなんです。申し訳……ありませんでした」
「……」
とうとう、言ってしまった。
黙っている高橋さんを恐る恐る見上げると、その顔を見た途端、堪えていたものがドッと溢れだしてきた。
「ごめんなさい。高橋さん。どうしても……どうしても、断れなかったんです。私が、あの時、きちんと断っていたら、こんなことにはならなかったのですが……」
「何で、それを俺に話すと迷惑がかかるんだ?」
「こんなに遅くまで、何処に行ってたんだ?」
「そ、それは……」
どうしよう。
まさか、ずっと、高橋さんのマンションで待ってました。とは、何だか言いづらい。
「勤務時間でもないから、そこまで立ち入ることはしたくない。だが、怪我をしているお前が、今置かれてる立場を少しは考えろ」
高橋さん……。
「申し訳ありません……でした」
あろうことか、高橋さんに心配をかけてしまった。
高橋さんが何故、今此処に居るのかよく分からない。だけど、私が心配かけてしまったことだけは確か。
「ごめんなさい。高橋さん」
「お前、足が痛いんじゃないのか? 大丈夫か?」
エッ……。
足、確かに痛い。
高橋さん。そんな優しい言葉なんてかけないで。私は、高橋さんを裏切ってしまったのに……。
「どうした?」
下を向いたまま、何も言わないので、心配して高橋さんが私の顔を覗き込んだ。
ああ、もう私……。
「本当に、ごめんなさい。高橋さん。ごめん……なさい」
「そんなに、謝らなくていい」
そうじゃないの。
「そうじゃないんです。私……。本当に、ごめんなさい」
「いったい、何のことだ?」
俯いて視線を合わせられないでいるけれど、高橋さんがジッとこちらを見ているのが何となく分かる。
「私、どうしても高橋さんに謝りたくて。それで……」
謝らないといけないのに、なかなか次の言葉が出て来ない。
「ずっと考えていて、でもやっぱり高橋さんに謝ろうと思って、高橋さんのマンションに伺ったらお留守で……」
「お前、その足で俺のマンションまで行ったのか?」
高橋さんに呆れられてしまったかもしれないと思うと、直ぐには返事ができない。
「まさか、駅から歩いて行ったのか?」
思わず黙って頷くと、高橋さんが大きく溜息をついた。
「お前……。何で、電話しなかったんだ?」
電話?
電話なんて、思いもしなかった。
「電話……。電話なんかで、済む問題じゃなかったんです。電話なんて、できなかったです。だって、私……高橋さんを、騙してしまって……。それで、ずっと後悔してたんです。だけど、そのことを話してしまったら、高橋さんに迷惑がかかってしまうから。だから、言えなくて……。でも、これは私の勝手な言い訳で、高橋さんを騙したことには変わりなくて。だから、私……。高橋さんに会って、ちゃんと謝りたかったんです。でも、高橋さんがマンションに居なくて、帰ってこなくて……。だけど、終電がなくなってしまうからと思って、だから帰りが今になってしまったんです。ごめんなさい。高橋さん。私、高橋さんに嘘をついていました。明日、渋谷で待ち合わせをしたのは……。あれは、その……宮内さんに頼まれたからなんです。申し訳……ありませんでした」
「……」
とうとう、言ってしまった。
黙っている高橋さんを恐る恐る見上げると、その顔を見た途端、堪えていたものがドッと溢れだしてきた。
「ごめんなさい。高橋さん。どうしても……どうしても、断れなかったんです。私が、あの時、きちんと断っていたら、こんなことにはならなかったのですが……」
「何で、それを俺に話すと迷惑がかかるんだ?」