新そよ風に乗って 〜幻影〜
「いったい、何の話だ?」
高橋さんが路肩に車を寄せて、ハザードを出しながら停車した。
「お前、何の話をしてる?」
「ごめんなさい。自分がいけないのに……泣いてるなんて、おかしい……ですよね。高橋……さん。気にしないで下さい」
ちゃんと話そうと思っているのに、涙で途切れ途切れになってしまっている。
「おい! 何のことだ?」
「嫌……」
高橋さんが、顔を覆っている両手を無理矢理離そうとしたので必死に力を込めたが、力では到底敵わなくて、両手を高橋さんに掴まれてしまった。
「何の覚悟だ?」
「いいん……です」
「泣いてたら、分からないだろう?」
高橋さんは、意地悪だ。
分かっていて、知っていて聞いてるの? そこまで、私は……。
「高橋……さん。分かっていて、聞くんです……か?」
「いったい、何の話をしてるんだ。俺には、さっぱり分からない」
高橋さんが、少し語気を強めながら言った。
「いいんです。たとえ、高橋さんの交換条件が……今夜、お付き合いすることだとしても……。それが遊びだったとしても、私は覚……」
「ハハハッ……」
エッ……。
「お前、まさか……。何、考えてるんだ?」
高橋さん?
何で? 何で笑うの?
「何で……笑うんですか? 確かに、私は何も知らなくて……子供で幼稚かもしれないですが、でも自分の行動には責任を持ち……ます」
泣きながら言っているので、まったく説得力はないけれど、でも高橋さんに子供扱いされたくなかった。
「お前さあ……。どうして、そう飛躍するというか、勘違いして暴走してるんだ?」
「えっ?」
勘違い?
「か、勘違いって……」
「俺が何時、お前とどうにかなるといった?」
高橋さん。
「でも、さっき高橋さんは、いいところ。着いてからのお楽しみって……」
「確かに言った。だが、俺に付き合えと言ったのは、そんなことじゃない。明良のところに向かってるだけだ」
エッ……。
「見たところ、その足、素人の俺が見てもかなり腫れてる。本当は、痛いんだろう?」
「そ、それは……」
「だから、今から明良に診てもらおうと思って向かってる。さっき、明良にコンビニから電話したら家に居たから」
「高橋さん」
そんな……。私の勘違いだったの?
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