新そよ風に乗って 〜幻影〜
明良さんは私の左足を台の上に置き、診察を始めた。
レントゲンも撮ってみたが、幸い骨には異常なく、単なる捻挫のようだった。
明良さんが、上手に湿布を貼ってくれている。ひんやりして、気持ちいい。
そして、その上から包帯を巻いてくれている姿を見て、その手早さと器用さに感心しながら、明良さんの本業はやっぱりお医者さんなんだと実感していた。
「これで、ヨシ! そろそろ、いいかな? きっとイライラして、奴さん待ってるだろうから」
奴さん?
「高橋さん。どうぞ、お入り下さい」
明良さんは診察室のドアを開けて、外に誰か居たのか、高橋さんと呼んだ。
「どうだ?」
「捻挫だね。骨にも異常ないし……。まあ、全治2週間ってとこかな? どうする? 診断書、書くか?」
「そうだな……。取り敢えず、今日はいい。まだ、通院が必要なんだろう? その時にでも……」
「了解」
何の話?
高橋さんと明良さんが、よくわからない会話をしている。
「あっ、陽子ちゃん。薬局で、湿布薬だけ貰って帰ってね。1日、3回ぐらい貼り替えてくれればいいから。あと……来週明けにでも、もう1回診せてくれる? いつでもいいけど、 後で俺の外来時間、書いて渡すから」
「はい。ありがとうございます」
明良さんは、本当に優しいな。
前からそう思っていたけれど、今日はつくづく再認識した日でもあった。
「もう、仕事終わりだろう? 飯でも喰いに行くか?」
「of courseよ! 貴博の奢りでな」
「わかってる」
2人のそんな会話を聞いていると、相変わらず仲が良いなと思い、とても羨ましく感じられた。
「じゃあ、何処にしようか? 陽子ちゃん。何、食べたい?」
「えっ? わ、私……ですか? 私は、このまま帰りますので、どうぞお二人で行ってらして下さい」
何だか、そんな気分じゃなかった。
足の痛さもあったけれど、2人の邪魔をしたらいけないとも思えた。
「はあ?」
「お前、どうやって帰ろうとしてんだよ?」
うわっ。
思いっきり、その2人からの総攻撃……。
「じゃあ、イタリアンな。明良。車出して来いよ。待ってるから」
「おお。陽子ちゃん。それじゃ、後でね」
後でねって、明良さんまで……。
「あの……」
「大丈夫だ。痛くなっても、医者が付いてるんだから安心しろ。ほら、行くぞ」
「これ、使っていいよ。貴博は、ちょっと不満かもしれないけど?」
明良さんが、車椅子を何処かから持ってきてくれた。
「何で、俺が不満なんだよ?」
「いいから、いいから。陽子ちゃん。じゃあねー」
明良さん……。
嵐のように明良さんはが診察室から出て行った後、何となく気まずい空気が流れ、高橋さんも黙ってしまった。
しかし、沈黙に耐えられなくなり、気になって横に立っている高橋さんの顔を見上げると、高橋さんと思いっきり目が合ってしまった。
とても綺麗な澄んだ瞳は、優しく温かで、ジッと私の瞳を捉えて離さない。
そんな高橋さんの瞳から、視線を逸らすことが出来なかった。
すると、そっと高橋さんが左手を私の頭の上に置いた。
その手は大きくて、それでいて何だかとても安心してしまい、思わず一瞬、目を瞑ってしまい、慌てて目を開けた。
そんな診察ベッドの上に腰掛けている私の目線に、高橋さんが合わせるように身体を屈ませたので、思わず目を逸らして今度は高橋さんのネクタイの結び目辺りを見ていた。
レントゲンも撮ってみたが、幸い骨には異常なく、単なる捻挫のようだった。
明良さんが、上手に湿布を貼ってくれている。ひんやりして、気持ちいい。
そして、その上から包帯を巻いてくれている姿を見て、その手早さと器用さに感心しながら、明良さんの本業はやっぱりお医者さんなんだと実感していた。
「これで、ヨシ! そろそろ、いいかな? きっとイライラして、奴さん待ってるだろうから」
奴さん?
「高橋さん。どうぞ、お入り下さい」
明良さんは診察室のドアを開けて、外に誰か居たのか、高橋さんと呼んだ。
「どうだ?」
「捻挫だね。骨にも異常ないし……。まあ、全治2週間ってとこかな? どうする? 診断書、書くか?」
「そうだな……。取り敢えず、今日はいい。まだ、通院が必要なんだろう? その時にでも……」
「了解」
何の話?
高橋さんと明良さんが、よくわからない会話をしている。
「あっ、陽子ちゃん。薬局で、湿布薬だけ貰って帰ってね。1日、3回ぐらい貼り替えてくれればいいから。あと……来週明けにでも、もう1回診せてくれる? いつでもいいけど、 後で俺の外来時間、書いて渡すから」
「はい。ありがとうございます」
明良さんは、本当に優しいな。
前からそう思っていたけれど、今日はつくづく再認識した日でもあった。
「もう、仕事終わりだろう? 飯でも喰いに行くか?」
「of courseよ! 貴博の奢りでな」
「わかってる」
2人のそんな会話を聞いていると、相変わらず仲が良いなと思い、とても羨ましく感じられた。
「じゃあ、何処にしようか? 陽子ちゃん。何、食べたい?」
「えっ? わ、私……ですか? 私は、このまま帰りますので、どうぞお二人で行ってらして下さい」
何だか、そんな気分じゃなかった。
足の痛さもあったけれど、2人の邪魔をしたらいけないとも思えた。
「はあ?」
「お前、どうやって帰ろうとしてんだよ?」
うわっ。
思いっきり、その2人からの総攻撃……。
「じゃあ、イタリアンな。明良。車出して来いよ。待ってるから」
「おお。陽子ちゃん。それじゃ、後でね」
後でねって、明良さんまで……。
「あの……」
「大丈夫だ。痛くなっても、医者が付いてるんだから安心しろ。ほら、行くぞ」
「これ、使っていいよ。貴博は、ちょっと不満かもしれないけど?」
明良さんが、車椅子を何処かから持ってきてくれた。
「何で、俺が不満なんだよ?」
「いいから、いいから。陽子ちゃん。じゃあねー」
明良さん……。
嵐のように明良さんはが診察室から出て行った後、何となく気まずい空気が流れ、高橋さんも黙ってしまった。
しかし、沈黙に耐えられなくなり、気になって横に立っている高橋さんの顔を見上げると、高橋さんと思いっきり目が合ってしまった。
とても綺麗な澄んだ瞳は、優しく温かで、ジッと私の瞳を捉えて離さない。
そんな高橋さんの瞳から、視線を逸らすことが出来なかった。
すると、そっと高橋さんが左手を私の頭の上に置いた。
その手は大きくて、それでいて何だかとても安心してしまい、思わず一瞬、目を瞑ってしまい、慌てて目を開けた。
そんな診察ベッドの上に腰掛けている私の目線に、高橋さんが合わせるように身体を屈ませたので、思わず目を逸らして今度は高橋さんのネクタイの結び目辺りを見ていた。