新そよ風に乗って 〜幻影〜
高橋さんが、左手の指先で持っていた私の顎から手を離すと、自然に流れていた涙をそっと拭ってくれた。
「お前は、背伸びなんかしなくていい。そのまま、その純粋なままのお前でいればいい」
高橋さん……。
「但し、これは後者型だ」
「後者型?」
「そうだ。確かに、お前は後先考えずに突拍子もないことをすることもある」
うっ!
それを言われると、痛いところを突かれているようだ。
「だが、それは何事にも直向きに、素直に受け止めているからだと俺は思っている。だから、後者型だ」
後者型。
「○○だが、○○だ。というのを、後者型的見解とか前者否定、後者肯定論とか、いろいろな呼び方があるが、そういうことを言うんだ」
「そうなんですか……」
高橋さんの話を聞きながら、それでも不安な気持ちでいっぱいになっていた。
どんなに言い訳をしたとしても、嘘をついてしまったことには変わりない。それに、宮内さんとの約束を破ってしまったことで、高橋さんに迷惑がかかってしまうんじゃないかと思うと、不安に駆られて落ち着かない。
「でも、私は高橋さんに嘘をついてしまって……。それに、宮内さんとの約束を……」
「宮内のことは、後は俺に任せろ。お前は、何も心配しなくていい」
「高橋さん。でも……」
「返事は?」
先ほどよりは離れていたけれど、間近で高橋さんの瞳に見つめられたら、もうそれ以上、何も言えなくなってしまった。
「はい……」
「いい子だ」
そう言って、高橋さんが私の頭を撫でてくれたので、何故か安心して思わず目を瞑ってしまった。
「フッ……。お前、またそんな無防備なことして、催促してるのか?」
エッ……。
慌てて目を開けると、私の顔を覗き込むようにして、高橋さんが悪戯っぽく笑っていた。
「あっ、あの、そ、そんなことないです。ち、違います。違いますか……痛っ」
すると、高橋さんが私のおでこを人差し指で弾いた。
「もぉ……」
「出た、牛」
「高橋さん!」
「はい。何でしょうか? 矢島さん」
< 71 / 230 >

この作品をシェア

pagetop