新そよ風に乗って 〜幻影〜
「ヨッシャ! それじゃ、これから明良さんが作りましょう」
「やった」
「最初から、早くそう言えばいいだろ」
「外野、煩い。でも、もう遅いから野菜中心でね」
「野菜は、嫌だ」
「誰が、野菜が嫌だって?」
「いや、何でもない」
仁さん。野菜苦手なのかな?
「陽子ちゃん。ちょっと、待っててね」
「はい。ありがとうございます。お手伝いします」
「いやいや、それが駄目だって。陽子ちゃんは、静かに座ってて」
「はあ……。すみません」
そう言って、明良さんはキッチンに入っていった。
「仁。明日の午後は、何か予定あるか?」
「明日の午後? 今のところ、特にないよ」
「悪いが、ちょっと付き合ってくれるか?」
「ああ、いいよ」
明日の午後って……宮内さんとの約束があるんじゃ?
高橋さん?
「お前は、何も心配しなくていい」
「は、はい」
会話を聞いていた仁さんが、微笑みながら私を見てくれたので、同じく微笑みで返そうとしたのだが、ひきつってしまって上手く笑えていなかったと思う。
それから宮内さんのことは何も話題に出ず、高橋さんと仁さんの会話を聞きながら面白くて笑ってばかりいると、明良さんの声がした。
「出来たよー。仁。箸と取り皿の用意」
「ラジャー」
「貴博。グラスとドリンクの用意」
「了解」
明良さんに言われて、仁さんと高橋さんは素早く行動を開始した。
「陽子ちゃん」
「は、はい」
「陽子ちゃんは、ゆっくり歩いて席に着いて」
「はい」
いきなり呼ばれて驚いてキョロキョロしてしまったら、そんな私を見て高橋さんと仁さんに笑われてしまった。
恥ずかしい……。
それと共に、キッチンからオイスターソースのいい香りがしてきて、それに刺激されて忘れていた胃袋の活動が再開されたらしく、急にお腹が空いてきてしまった。
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