新そよ風に乗って 〜幻影〜
「では、持ってくよ−」
キッチンから明良さんの声がして、大きなお皿にのせられた料理が運ばれてきた。
「おっ。美味そうジャン」
テーブルの上に置かれた料理を見て高橋さんがそう言うと、明良さんが顔の前で人差し指をメトロノームのように左右に振った。
「美味そうじゃなくて、美味いの。会計士よ、日本語は難しいけど、数字と同じく正確に」
「ハン! 知るか」
「おっと、こんなことはしちゃいられない」
そう言うと、明良さんは急いでキッチンのカウンターの上に置かれている、もう1つの大皿を手に戻ってきた。
「美味しそう。あっ……」
思わず声に出してしまったが、今、明良さんが訂正したばかりのことをまた言ってしまい、慌てて右手で口を押さえた。
「そんなに強く手を押し当てたら、オマケの鼻が余計オマケのオマケになるぞ?」
はい?
オマケのオマケって……。
「そこの不穏分子の飛行機屋」
ふ、不穏分子の飛行機屋?
高橋さんを見ると、後ろを振り返って仁さんの方を見ている。
「振り返らなくても、お前だと思うけど?」
明良さんがお皿を持ったまま、高橋さんの顔を覗き込みながら言った。
「いや、不穏さんなんて、この部屋に居たかなと思ってさ」
はあ?
「不穏分子さんって、女性だろ?」
フオンブンコ?
「誰だ、それ?」
高橋さんと明良さんの会話を聞いてると、まるで漫才のようだ。
「どうでもいいが、腹減った」
「そうだよ。こんなくだらないことで貴博に付き合ってられん。飯だ、飯」
「いや、明良も同類」
「それ違う」
「同類とか、やめてくれ。俺はヤブ医者とは違う」
「ヤブ医者というな、ヤブ医者と。ちゃんと国家資格持ってるぞ」
プッ!
思わずおかしくて、吹き出してしまった。
「陽子ちゃん? 今、笑ったよね?」
「い、いえ、そんなことないですよ。明良さん」
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