新そよ風に乗って 〜幻影〜
「一長一短だな」
「だから野菜ジュースは、あくまで補助食品的な役割をするから、生の野菜を摂取しつつ、どうしても摂れない時とかに上手く利用すればいいぐらいに考えておいた方がいいぞ、仁」
「分かった」
「あれ? あれ、あれ? また、この明良さんの博識が出ちゃった? 参ったなあ……」
明良さん。
「誰も、参ってない」
「同じく」
「人がせっかく説明してやってんのに、それはないよねえ、陽子ちゃん?」
「えっ? そ、そうですよねえ。私、知らないことばかりで、とてもためになりました」
「それなら良かった、良かった」
明良さんは、ご満悦でおにぎりを頬張っていた。
今度から野菜ジュースを買う時は、成分表をちゃんと見てから買わなきゃ。
「それはそうと、貴博。明日、何処に行くんだ? 朝、早いのか?」
あっ……。
「いや、午後だから、朝連絡する」
「分かった」
午後だからって、やっぱり宮内さんとの待ち合わせの件なんじゃ?
「さて、そろそろ帰るぞ」
「は、はい」
時計を見ると、もう2時近かった。
「悪いな、明良。食い逃げ」
「毎度のことで。でも、陽子ちゃんに免じて許す」
「すみません。明良さん」
「いいのよー。仁君が、その代わりにちゃんと片付けてくれるから」
「俺かよ」
何だか、仁さんに申し訳ないな。
「すみません。仁さん」
「ああ、大丈夫だから。気をつけて帰って。足、お大事に」
「ありがとうございます」
「それじゃ」
「またな」
「おやすみなさい」
「ご馳走様でした。おやすみなさい」
明良さんの部屋を後にして、高橋さんの車で家に送ってもらう途中、流石に眠くなってしまってウトウトしていると深夜なこともあって、割と早く家に着いた。
「大丈夫か?」
助手席のドアを開けてくれた高橋さんに腕を掴まれて車から降りると、高橋さんに心配そうにそう聞かれた。
「はい。すみません。遅くまで、送って下さって、本当にありがとうございました」
「無理するなよ。おやすみ」
「おやすみなさい。あの……」
やっぱり、気になるから聞いてみよう。
「ん?」
「あの、明日、宮内さんに……。その……お会いになるんですか?」
「ああ。大丈夫だ。お前は、何も心配しないでいい」
「はあ……」
そう言われてしまうと、何も返すことができない。
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