来る日も来る日もXをして
「東雲くん、大丈夫ですかね?やけになって何か・・・。」

東雲くんが出ていったドアの前で立ち尽くしていると『かわいそうだけど、3年ここで働くっていうのは本人も了承してることだからね。転勤の可能性があるのは書類にも書いてあるし。読んでなさそうだけど。』と後ろから部長に言われる。

「菘さん、それよりご自分のことはどうなの?」

続けて社長に言われてハッとする。そうだった。私はハワイ2号店立ち上げのチーフとして5ヶ月後にあちらに行く事になったのだ。

「ええと・・・すごく驚いてますけど、光栄です。」

「そうね。国内の地方店でも海外店でもチーフの中ではあなたが最年少になるわ。私と部長の間ではあなたに行ってほしいということで即決したの。1%の迷いもなかったわよね。」

「うん。菘は仕事ぶりも丁寧だし、人間的にも皆に慕われてるからね。どこに出しても恥ずかしくない社員だよ。」

「あ、ありがとうございます・・・。」

二人から褒められて恐縮してしまう。そんな私を明日先輩が隣から温かい眼差しで見てくれている。

「まぁ、菘の玉にキズなところは保守的で固過ぎるところかな。だからハワイで自分の殻を破ってきてほしいというか、もっと自分の幅を広げてきてほしいんだ。可能性をたくさん持ってるんだから。」

「はい。」

「2号店とはいえ、1号店よりも中心地に出店するということはより大きな売り上げを求められるわ。プレッシャーもあると思うけど、私達はあなたならきっと素敵なお店を作ってくれるって信じてる。行ってくれるわよね。」

「はい。」

迷いはなかった。誰かが自分に期待してくれるのなら全力で応えたいと思ってきたし、入社時にしていたように店舗で直接お客様と接したい気持ちがあったから。それにきっとこれは自分が大きく変わるチャンスになる。
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