来る日も来る日もXをして
「ありがとう。菘さん。いつかはこちらに帰ってきて、社の中核を担ってほしいと思ってるの。明日くんと共に。」

社長が明日先輩に視線を移すとそれが合図のように部長が口を開く。

「明日は行ってくれるよね?急な話で悪いけど。」

「はい。もちろんです。」

北欧には初めての出店となるフィンランド店のチーフは明日先輩よりも更に先輩の女性が行くはずだったけれど、家庭の事情が出来たとのことで、本社でのフィンランド店担当となるはずだった明日先輩が急遽チーフとなった。出発は2ヶ月後だそうだ。

「祖母も喜びます。祖父が生まれ育った国、そして祖父と出逢い結ばれて幸せな結婚生活を送っていた国で再び暮らしたいと言っておりましたので。」

「えっ?ということは先輩ってもしかして北欧の血が流れてるんですか!?」

「菘、知らなかったの?明日はお父さんがハーフでお母さんが日本人のクォーター。あっちで生まれて3歳まで暮らしてたんだ。」

「そっか。だからフィンランド語堪能でそんな端正な顔立ちなんですね。」

思わずじっと見てしまうと『見るなよ・・・』と目を逸らされる。

「3歳の時、祖父が亡くなって、祖母と二人で日本に来たんだよ。フィンランド語は簡単な言葉しかわからなかったけど、自分が生まれた国の言葉だから勉強したんだ。」

「そうだったんですね。」

「じゃあ、とりあえず今日のところはここまでで。私達外出あるからね。」

部長がそう言いながら立ち上がると社長も続いた。

会議室に明日先輩とふたり残され、しばらく沈黙が続く。先輩がスマホを出して何やら操作し、私の目の前に置いた。
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