来る日も来る日もXをして
「そんなこと・・・美彩(みあや)ちゃんだって、東雲くんのこと本気で・・・。」

「彼女は自分の気持ちを押し付けてくるだけでした。更科さんは僕のコトを本気で心配してくれてましたよね。部長も社長も野放しにしている僕をわざわざ注意したり。」

「それはそういう性分だから・・・。」

「仕事をサボっている時、また更科さんが注意しにくるかな、って思ってたんです。今思うと待ってた。気にしてもらえることが嬉しかったんです。心の中に入ってこられるのも、うざいと思ってキレたけど、そんなことは初めてだから戸惑っていただけなんです。女の子達とは表面的な付き合いでしかなかったし、両親もずっと僕の心には触れてくれなかったから・・・自分達が『こうなってほしい』『こうじゃないとだめだ』という気持ちを押し付けるだけで・・・」

東雲くんの声は震えていた。

「東雲くん・・・」

「だから僕もいつも人より優位に立っていたかった。何もない人間が虚勢を張っていただけなんです。人と繋がるにはそれしか出来なくて、でも誰かといても心はいつも孤独で寂しかった・・・うっ・・・」

ついに泣き出してしまった東雲くんの背中をさする。

「そんなことない。東雲くんはゴッドハンドだって持ってるし、クローバーだって探してくれた。才能と優しい心がある。空っぽなんかじゃないよ。おうちのこと、ずっとつらかったね。」

「・・・っ」

「東雲くんはちょっとこじらせちゃっただけ。ちゃんと中身がぎっしり詰まってる、しっかりとした魅力のある人だよ。」

「更科さん・・・っ」

ドリンクが到着したオルゴールは少し前に聞こえていた。今聞こえるのは東雲くんが息を短く吸う音と鼻をすする音、それから私の手が彼の背中をさする衣擦れの音のみだ。さっきよりきつく抱きしめられているのでさすりづらくなっていた。
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