来る日も来る日もXをして
「え・・・何言って・・・。」

言いながら体がふわっとなる。お酒のせいかと思ったけれど、抱き上げられて体が浮いているのだった。見上げると忍くんは愛おしそうな瞳でこちらを見てくる。

以前マッサージをしてもらった時よりもずっとずっと優しく、まるで壊れ物のようにベッドに下ろされた。

「忍くん・・・あの・・・。」

忍くんはゆっくりと覆い被さってくる。

「あんたに告白してから日本(こっち)にいる時もハワイ(あっち)に行ってからも触れたいのをずっと我慢してた・・・でも、そろそろ限界だよ・・・。」

切羽詰まったように言われてこちらまで苦しくなってきてしまう。けれどいくらお酒を飲んで気持ち良くなっているからといって流されるわけにはいかない。『私は・・・』と言いかけると手のひらで両目を優しく覆われる。

「目閉じて、僕のこと明日さんだと思ってくれていいから・・・。」

忍くんはとても苦しそうだった。苦しめているのは私だ。今や忍くんは以前愛来(あいら)ちゃんが言っていたような『私だけを大切にしてくれる人』だったし『自分の手の内で転がせる男』なのかもしれない。

でもいくら明日先輩への想いが伝わらなかったからといって自分に気持ちがないのに彼の気持ちを受け取るなんてことは私には出来ない。無駄に真面目なのだということは自分でもよくわかっている。仕事では以前よりは融通がきくようになったと思う。でもここは譲れない。

「忍くん、ごめん。」

前の彼ならそこで逆上して無理矢理触れてきたかもしれない。けれど今の彼は違った。起き上がりお菓子のゴミなどをゴミ箱に片付ける。

「僕・・・諦めません。諦められません。菘さんが明日さんを諦められないのと同じです。」

起き上がった私に忍くんは穏やかな笑顔を見せる。

「じゃ、おやすみなさい。」

「・・・おやすみなさい。」

ドアを出かけた忍くんが『あ。』と振り返る。
< 139 / 162 >

この作品をシェア

pagetop