来る日も来る日もXをして
「言い忘れてたけど、胸元、見えてます。」

「えっ!?ほんとだ!ちょっ、もっと早く言って!」

「や、ごほうびタイムかと思って・・・。」

「もう!」

「はは。じゃ、また明日。二日酔い対策、ちゃんと飲んでくださいね。」

以前の彼のようにニヤリと笑うと忍くんは出ていった。

手で押さえた胸元を見る。私の頭に浮かんでいるのは出ていったばかりの忍くんではなく、明日先輩だった。先輩と大人なホテルに泊まった日も慌てて着たバスローブの胸元がはだけていて先輩が頬を染めて・・・ほんの一年前の出来事が随分昔に思える。自分自身の思い出なのに、厚いガラスケースに入れられた飴細工のようにもう触れることは出来なくなっていた。

───もういい加減、諦めなくちゃ。

二日酔い対策のドリンクを飲み、最後にお水を飲もうと思ったら飲みきってしまっていたので廊下に出て自動販売機を目指す。

───明日先輩と(ユカ)さんもこのホテルに泊まってるんだよね・・・いや、だから、諦めるしかないんだから考えちゃダメ・・・ん?ゴミ?

廊下に何かが落ちているのを見つけてしゃがんでみる。

「これは・・・サチさんの・・・!?」

会社の前の広場で四つ葉のクローバーを探していたサチさんの代わりにクローバーを探し、忍くんが見つけてくれた四つ葉を私が栞にしたもので間違いなかった。

「・・・更科(さらしな)?」

後ろからかけられた声。振り返らなくてもわかる。声の主は私が諦めなければならない相手・・・明日先輩だった。
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