来る日も来る日もXをして
「確かに結構な量飲んでましたけど、それだけでそんな顔になります?美人が台無しですよ。」

翌朝早く、ホテルをチェックアウトし24時間営業の牛丼店で朝定食を淡々と口に押し込んでいると隣の忍くんが心底心配そうに言った。

「ありがと。大丈夫だから。」

「どう見たって大丈夫じゃないですよ。手も怪我してるし。僕、長野まで送ります。」

今日も日本(こっち)に滞在出来るので長野(実家)に帰り、明日ハワイに戻ることになっていた。本当はもっとのんびりしたいけれど、ありがたいことに店が忙しいのでなかなか難しかった。

「だから大丈夫。そもそも忍くん実家東京なんだから昨日もホテル泊まらないで帰ればよかったのに。宿泊費、私は会社が出してくれたけど、自腹でしょ?」

「菘さんがホテル泊まるんなら一緒に泊まるに決まってるじゃないですか。むしろ一緒の部屋に泊まりたかったです。『あいにく本日は満室でして・・・』ってよく漫画とかであるじゃないですか。」

「そうしたら尚更実家帰りなって言ってたよ。」

「はは、でしょうね。」

忍くんの笑顔を盗み見する。見とれてしまうような綺麗で可愛い笑顔。明日先輩に宣言したようにこれから彼のことを好きになれるだろうか。

「今、僕に見とれてましたよね!?」

忍くんは目ざとく気づいて嬉しそうにした。

「み、見とれてたっていうか・・・」

「見とれてたんですね!菘さん相変わらずわかりやすいから。やー嬉しいな。ついに一歩前進かな。牛丼もさっきより美味しく感じます。」

忍くんはそう言ってつゆだくの大盛り牛丼をガツガツ食べきった。

「今日本当は僕の実家に来てほしかったです。親に紹介したかった。僕の恩人で好きな人ですって。こんな気持ちは初めてで戸惑うけど、嬉しいです。」

「そ、そう・・・。」

「いつか菘さんのご実家に連れていってもらえてご両親に紹介してもらえるような男になれるように頑張ります。」

真っ直ぐこちらを見る瞳はとても綺麗だった。


その日は実家に泊まり、翌朝新幹線に乗る。自由席に座り出発してしばらくして、昨夜遅くまで家族と語り合っていて眠かった目が一気に覚めた。
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